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乳幼児期の発達障害児の必要な支援について

乳幼児期は、人間の基盤を形成する上で非常に大切な時期です。この世の法則が何もわからないままに生まれてきた赤ん坊は、泣くことで不安や空腹不快感を訴えます。泣けば養育者が現れ、抱き上げてもらえる、あるいは空腹を満たしてもらえる等、問題が解決されます。つまり、「泣く」ことは最初のコミュニケーションであり、それが問題解決につながることで、人と人との相互関係の基盤が築かれていくことになります。

母親の方も、子どもの中に情緒的な応答を見出したときに、育児の疲弊が吹き飛ぶような喜びを感じるものです。こうして相互的なコミュニケーションはさらに発展していきます。

一方、自閉スペクトラム症(AutismSpectrumDisorderASD)児では、泣かない赤ん坊であったり、泣き止まそうと抱き上げたり授乳したりしても泣き止んでくれません。視線も合いにくく、応答性が乏しくなります。母親よりもテレビ画面や回転するものに没頭します。自閉スペクトラム症児では情緒的な応答性が乏しく、養育者は子どもとのコミュニケーションの取り方に戸惑い、相互的なコミュニケーションが発展しにくくなります。

つまり、「言葉の遅れ」は、本人が生来持つ言語能力の問題に加え、このような環境的因子にも影響し、負の連鎖を生じているということになります。

このような負の連鎖への介入として、乳幼児期に必要な支援の1つは、「子どもとの関わり方」のサポートです。

人に興味を持ちにくい子どもにどのように関わって行くか、子どもにどのように人との関わり方を体験させていくかについて、発達障害特性を踏まえ対応を考えていくことが大切です。

①物よりも人に興味を向けさせる
子どもが好む要素を用いて、こちらに興味を持たせたり、相互的な応答につなげることを目指します。まず、好きな刺激は何かを考えます。くすぐられること、ゆらゆら揺らされること、回転すること・もの、ジャンプすること等子どもそれぞれの嗜好があります。好きなキャラクターやジャンルも使えます。それを用いて、保護者との双方向的なやり取りを目指します。

34歳以上になれば一緒に作業をするのも良いです。作業の中には、言語的・非言語的コミュニケーションを多く含んでいます。一緒にジャガイモやにんじんを洗って食事の用意をしても良いし、掃除や庭仕事でも良いでしょう。

②声かけには視覚刺激も併用する
「お出かけするよ」と声をかけても、今やっている遊びをやめられないということはよくあります。多くの子どもは聴覚よりも視覚優位です。また、聴覚優位であっても、言葉のみでは幼い子どもはイメージを持ちにくいです。

例えば「お出かけするよ」という言葉をかけながら靴や帽子を見せた方が、子どもはその気になりやすいくなります。行き先の画像をスマートフォンで見せるのも良いでしょう。視覚刺激を有効に使ことが大切です。

③集団で過ごす体験を積む
子どもにとって発達促進的なものは、やはり同年代の子どもからの刺激です。「発達がゆっくりだから」と躊躇せずに、園の理解や協力を得ながら集団生活を体験させていきたいところです。集団生活とは言っても、最初から同年代の子どもと遊べなくても良く、まずは「集団(小集団でも良い)の場で過ごす」ことを目標とします。

その時には、初めから周囲と同じ事ができていなくても良いです。まずはその場にいられることを目標にしましょう。
遊びに関しても同様です。まずは他児のいる中で自分のしたい遊びで遊ぶ、次に大人を介して子どもと一緒に遊ぶ、最後に子ども同士で遊ぶことを目指して行きます。

また、療育的対応が可能な児童発達支援事業所を紹介するのも良いでしょう。専門医療機関の診察は数か月に1度であり、療育スタッフが育児に困惑する母親の日々の支えとなってくれることも多いです。

④人を頼る
「自立させること」が重視されがちですが、「うまく人を頼る能力」も生きていく上では大切です。「手伝って」と言える子どもであれば良いですが、それは容易ではないこともよくあります。
最終的には言葉で伝えられるのが目標ではありますが、段階的にまずは視線で訴える、次にとんとんと背中を叩く等、本人なりのヘルプのサインの出し方を習得できると良いでしょう。


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