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学童期の発達障害児の必要な支援について

学童期は、自由奔放に走り回ることのできた保育園生活から、急に集団で同じ行動を取ることを求められる小学校生活が始まり、子ども自身への負荷が強まっていく時期です。対人関係のトラブルも生じやすくなり、いじめの対象となったり不登校となってしまうこともあります。発達障害児の支援としては、担任はもちろん、必要に応じてスクールカウンセラーや特別支援コーディネーター等も活用しながら、子どもの状態について学校と共有し、適切な支援を求めていくことが必要です。

①自己効力感を育む

周囲と同じ行動が求められる学校生活の中では、発達障害児はどうしても失敗体験を重ねがちです。適度な失敗体験は、体験から学ぶことにつながるとも言えます。しかし、同じ失敗を繰り返し周囲から卑下されたり、失敗体験と成功体験のバランスが著しく悪かったりすると、被害的な捉え方が強まったり、攻撃的になったりすることもあれば、不登校になったり抑うつ的になったりと内へ籠もる形となることも少なくありません。このような子ども達は、「自己効力感」が低くなってしまします。

「自己効力感」とは、わかりやすく言えば「やったらできる」という感覚です。自己効力感が高い人は、さまざまな課題や困難に直面しても遂行しようと課題に向き合うことができます。一方、自己効力感の低い人は、目の前の課題を実際よりも困難に感じてしまい、「どうせ自分なんて…」と課題に向き合うことができません。

学童期は、このような失敗体験を繰り返しやすい発達障害児に、少しずつ自己効力感を育んでいきたい時期です。自己効力感を育むためには、「成功体験を積ませる」ことが最も大切です。それは大きな成功でなくても良いです。

例えば、小学4年生の算数に蹟きが生じ、やる気をなくしている子どもには、小学23年生の課題を与え達成感を持たせる。あるいは、計算問題が20問あるプリントにどうしても向き合えない子どもには、1枚に3問のプリントを複数枚やらせる。子どもにもプライドがあるので、実年齢より低い学年の課題ばかりでは、意欲が生じにくいかもしれない。そのような場合は、どこかにプライドをくすぐる材料も含めたい。例えば、算数は2学年下であっても、本人が好きな社会は少し先取りした知識を教える。歴史上の人物を使って漢字を練習します。好きなキャラクターを用いた教材を用意します。学習でなくても、運動や作業、家の手伝い等でも良い。何かを成し遂げる体験を何とか積ませていきたい時期です。薬物療法も、成功体験を増やす一つの大きなきっかけとなり得る。

②認められる場を作る

保護者に褒められること、認められることは子どもにとってもちろん大切ですが、学童期になってくるとその「価値」は少々下がり、集団で認められることを欲するようになります。

自分が所属する社会集団で認められていないと感じる発達障害児は、反抗的な態度が助長され、さらに認められなくなるという悪循環に陥りやすくなります。または、不登校となり家に籠もりがちな生活となります。

まずは担任に、本人についての理解を得ることは必須です。よく言われるように、「困った子」は「困っている子」なのです。

授業中立ち歩く子どもは、授業がわからなくて困っているかもしれないし、簡単すぎて持て余しているのかもしれません。また、一見周囲を困らせる発達障害児の特性は、違う側面から見ると長所として発揮できる場面もあります。

例えば、授業中につい反応して手も挙げずに発言してしまう子どもは、言い換えると頭の回転が良く、次々何かしら思いついてしまうのです。

このような子どもに、「A君が口をはさむので授業が進まなくて、みんな困っています。」と担任が言えば、A君はクラスメートから「迷惑をかける人」という認識を持ってしまいます。しかし、担任が「A君の発想はおもしろいね」でも、他の子も意見が言いたいから、何か言いたいときには5秒数えて待ってみて」と言うと、A君のポジションは「おもしろい人」になります。

そうは言っても、大勢の子ども達を相手にする学級の中では、うまく行かないことはしばしばあります。そのような場合は、本人が認められる場を学校外に求めても良いと思われます。

本人が興味を持つ分野に関する習いごとでも良いし、放課後等デイサービスも利用しやすいです。そういう場では、本人と同じ興味を持つ同志に巡りやすいというメリットもあります。

 ③親の関わり方への助言

学童期は幼児期とはまた違う意味で育児に疲弊しがちな時期です。宿題や時間割等、親が声をかけなければならない場面が増えます。親の思い通りに動かない子どもに苛立ちも感じやすいです。

具体的な対応の一つ一つは、ペアレントトレーニングの手法等を参考にして頂くとして、もう一つ大切なことは、今その子どもがどのような時期に差し掛かっているのかを客観的に保護者に伝え、保護者自身に見通しを持たせることです。

学童期も中盤に差し掛かってくれば親の言う通りに動かなくて当然であり、子どもを親の所有物ではなく、意思を持った個として認めていかなければいけません。大人の言うことに従順に従う子どもが問題がないかと言えばそうではありません。

この子の得意なところは何なのか、課題は何なのかを冷静に見極めることが大切です。発達障害特性に基づいた対応(声かけよりも視覚的支援見通しを持たせる等)を取り入れると良いでしょう。

ついついできていないところばかりに注目し、否定的な声掛けが増えがちな時期ですが、否定のオンパレードにならないように、保護者にも忍耐が必要です。

注意すること、叱ることが必要な場面もありますが、子どもを認める・評価する関わりも十分持つようにします。そのバランスが大切です。

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