記憶障害へのアプローチ方法

環境調整


記憶障害者をとりまく周囲の環境に手を加えて生活や仕事をしやすくすることはすべての患者に必要な支援です。具体的には、物理的環境、生活全般、コミュニケーションの3側面において記憶への負担が少ない環境を作ります。

物理的環境に対する支援として、次に何をすべきかが思い出せず、ADLについても指示が必要だった重度記憶障害例に対して、戸棚などの収納内容をラベルにして貼る、行動の順序をチェックリストにして貼る、行動できたらカレンダーにシールを貼ってフィードバックする、という訓練を系統的に行った結果、自立が可能になり自宅復帰できたとの報告があります。

生活全般について記憶への負担を減らすためには、生活パターンや日課を決めて規則正しい生活をする、予定の変更は最小限に抑えるなどが有効です。

会話やコミュニケーション面での調整としては、記憶障害のある人に話しかける場合はまず自分の名前や役割を名乗る、話題やテーマを具体的に伝えて話しかけ、折に触れて繰り返す、何かを説明したり、指示したりする時は必ず紙に書いて目につく場所に貼る、といった配慮をします。

学習法の改善


記憶障害のある人にとって新たな学習は極めて困難なので、本人にとって重要で必要なことや、本人が行わなければならない作業の手順などに限定して学習してもらいます。学習を促進する方法として、例えば、注意を払う、覚える材料を整理して構造化する、他の事物に関連付けるなど深い処理をする、時間間隔をあけて学習する、などの有効性がこれまでの研究から明らかになっています。

ここでは、記憶障害のリハビリテーションの領域で注目されている、誤りをさせない学習法と間隔伸張法を取り上げたいと思います。

誤りをさせない学習法(エラーレス学習)とは、いったん間違えると誤反応が残り、修正が難しいという記憶障害者の特性から、新しいことを記憶する場合に誤反応を避け、最初から正反応を導く方法です。健常者では、仮に間違えたとしても修正体験がエピソード記憶に残るため、間違いを通して学んで行くことが可能です。しかし、記憶障害者ではエピソード記憶が著しく障害されるため、修正体験は記憶されない。一方、潜在記憶は記憶障害者にも保たれているため、自分の行った誤り反応が潜在記憶に残り、次回以降も同じ誤りを繰り返す結果になると考えられています。

エピソード記憶のない記憶障害者にとっては試行錯誤を避けるのが最善の方法であり、間違いをさせないように周到に計画した上で学習してもらうことが必要です。

間隔伸張法とは、情報を保持する時間間隔を少しずつ延ばして想起させて行く方法です。第一試行、第二試行で想起に成功した場合、両者の時間間隔が長くなるほど第三試行が成功する確率が高くなるという実験結果に基づいています。

まず、短い保持時間の後にテストを行い、想起に成功したらその後の保持時間を次第に長くして行く、というように想起テスト間の間隔を徐々に延長していく。

記憶障害患者、認知症患者での効果が知られていますが、最近は失語症者の呼称訓練についても有効との報告があり幅広く応用できます。
車いすの操作や安全な移動の仕方、嚥下の仕方などを認知能力の低下した高齢者に指導する際にも有効です。
ここでもできるだけ失敗を避け、また失敗した場合はすぐに正答もしくは手がかりを与えることなど、エラーレス学習を基本として行うことにより効果を上げることができます。

代償手段の利用(内的・外的補助手段)


内的補助手段とは、記憶や想起をしやすくするために記憶障害者自身が頭の中で用いるストラテジーです。例えば、人の名前を覚える時に、視覚的なイメージ(並木さん→並木道)に置き換えて覚える、などです。まとまった内容を記憶するときに、情報を整理した形で取り込むための方法がPQRST法です。

PQRST

P:Preview(ざっと目を通す)
Q:Question(質問を作る)
R:Read(じっくり読む)
S:State(質問に答える)
T:Test(答え合わせをする)

時間をかけて、構造化し、深い処理を行うことで記憶に残りやすくします。内的補助手段はどのような患者でも活用できるというわけではありませんが、試みて使えそうであれば訓練を行います。

外的補助手段とは、記憶障害によって生じる困難を減らす目的で、日記やメモ、カレンダー、手帳を使ったり、ICレコーダーのタイマー機能を使って時刻ごとにすべきことを音声出力したりすることです。

外的補助手段は、実際に使ってもらう訓練を身につくまで丁寧に行わない限り活用に至らない例も少なくありません。


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参考文献
Jpn J Rehabil Med VOL.42 NO.5 2005

記憶障害のリハビリの考え方

記憶リハの目標は、患者自身の記憶能力と患者を取り巻く環境が要求する記憶能力との隔たりを何らかの方法で調整し、日常生活や社会生活への適応をはかることであり、記憶を筋肉のように"鍛える"ことではありません。

脳損傷による記憶障害では、元のレベルを回復することは困難であり、また、回復がおきる期間は比較的初期に限られると言われています。

このため、時期に応じた系統的なアプローチが必要となります。

初期の対応としては、まず適切な診断・評価によって記憶障害を見落とさないことが肝要です。評価結果をもとに、記憶障害についての情報を当事者、家族に提供し、今後起こりうることや日常生活上の対処の仕方などを伝えます。

発症から日の浅い入院中のリハでは、主として病棟での自立度の向上を目的に訓練を行います。

例えば、その日の予定をノートなどで確認して行動する、病室や訓練室の場所を覚えて移動できるようにする、などを課題としてとりあげ、細かくステップに分割し、スタッフ間でやり方を統一して指導します。

病棟での自立度の向上をはかりながら、代償手段の獲得に向けて手がかりを探って行きます。

さらに退院などの際にも支援機関との繫がりが絶たれないように配慮します。

一方、発症からの経過が長い場合には、生活の中での問題を調整し、解決をはかるという日常生活に即した目標設定とアプローチが必要となります。

記憶障害に気づくまでに数年かかるケースもありますが、発症からの経過期間にかかわらず、リハとしてアプローチをすべきことはあり、有効性もあるとの報告もあります。

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参考文献:リハビリテーション医学VOL.42 NO.5


顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)の病因や病理、病態生理について

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)の病因・病理・病態生理

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー は、常染色体優性遺伝をとる浸透率の高い疾患です。
頻度は他の筋ジストロフィーに比べると低く 、人口10万人あたり0.20.5人です。

本症の遺伝子座は第4染色体長腕テロメア4q35-qterに存在します。
この部位を認識するプローブを用いてサザンブロット法を行うと 、大半の患者では正常よりも短い(35kb)制限酵素断片が得られ(遺伝子の欠失) 、診断に役立ちます。しかし 、遺伝子はまだクローニングされていません。

筋生検では筋線維の大小不同 、壊死・再生など筋ジストロフィーの変化がみられます。
時に炎症細胞の浸潤をみて 、筋炎との鑑別を要することがあります。


顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)臨床所見

発症は小児期から成人前までと幅広く 、また症状も幅があります。

患者の家族をみると表情が乏しいだけで 、四肢には全く筋力低下をみないこともまれではありません。

病気は上肢の挙上困難で気づかれることが多いです。

肩甲帯周囲の筋萎縮が強いので 、病初期から翼状肩甲winged scapulaeがみられます。

大半の患者では顔面筋がおかされ 、頬のふくらみがなくなり 、表情が乏しくなり、病気が進行すると 、筋力低下は下肢にも及びます。

本症の筋罹患は左右非対称であることが特徴的であるとされています。

心・肺機能はおかされにくく、難聴 、網膜症retinal vasculopathyが約半数の患者にみられます。