Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の摂食・嚥下障害について





DMD患者は、10歳代より口腔期の異常が存在し、さらに20歳頃より咽頭残留などの咽頭期障害が出現し、口腔、咽頭の通過障害は固形物の方が強く、咽頭残留は液体の方が多くみられたとの報告があります。また、口腔・咽頭移送時間は年齢とともに遅延し、舌骨の前上方への運動時間は、年齢とともに短縮すると報告されています。

 

摂食・嚥下運動の各プロセスにおける障害と対策について


準備期の障害と対策について

閉口筋と開口筋の機能の不均衡により、しばしば開口障害と開咬を認めます。
咬合不全があり、咬合力は20歳代でも100N以下であり、健常人の平均値、10歳代468N20歳代654Nに比べきわめて低値となります。
また、巨舌や筋力低下のため、明らかな舌の可動域制限がみられます。
歯列は、前後径が小さく左右径がやや大きく、相対的に側方に広がり、そのため舌の左右運動量が多くなり咀嚼効率が低下してしまいます。
対策としては、咬合床などの装置により、咀嚼機能を改善したとの報告があります。

口腔期の障害と対策について

巨舌と舌の可動域制限のため、奥舌への移送や咽頭への送り込み、運動中に口腔内を食塊が行きつもどりつしてしまいます。対策としては、咬合訓練や口腔周囲筋のストレッチを行い可動域を拡大を図ります。

咽頭期の障害と対策について

咽頭筋の筋力低下による咽頭移送障害と舌骨挙上不全による食道入口開大不全があります。そのため、食道入口部を食塊が一度に通過しないことが少なくありません。結果として、食塊の口腔への逆流が少なからず認められます。障害食道入口開大不全に対してはバルン拡張法法(1回引き抜き法)が有効なことがあるとの報告があります。

食道期の障害について

食道の移送障害は、少ないといわれていますが、胃食道逆流がみられることがあります。

摂食障害と対策について

脊柱変形や上肢・体幹筋力低下による疲労が必発です。慢性進行性のため、患者は必ずしも疲労を自覚していませんが、食事の後半に頻脈や体動が目立つときは、疲れているサインと判断します。

脊柱変形や上肢・体幹筋力低下による疲労の対策としては、ただちに全面介助に変更するのではなく、患者の自食の意欲を尊重して、食事の後半を介助するなどの配慮が必要です。また、脊柱の変形に対してポジショニングを工夫し、摂食姿勢の安定を図る。上肢筋力低下については、テーブルの高さや食器の工夫も考慮します。

呼吸との関係

呼吸不全と嚥下障害は互いに悪化要因となります。嚥下障害のある呼吸不全患者において、摂食時にまず脈拍が上昇し、次に経皮的酸素飽和度(SpO2)が低下します。
これは、嚥下時の呼吸筋の動員や嚥下時の無呼吸などが、呼吸へ影響していることを反映しています。SpO2の低下は必ずしも誤嚥を意味しないと言われています。

10歳代では口腔期障害の方が優位ですが、20歳代前後から咽頭筋力低下による咽頭残留、不顕性誤嚥による痰がらみが出現してきます。10歳代後半から呼吸不全を合併する患者があり、呼吸不全は嚥下状態に影響を及ぼします。

呼吸不全初期には、夜間のみマスクによる呼吸管理を行い、日中は呼吸器を装着しないことが多いですが、食事中にSpO2が低下する場合は、食前に呼吸器を装着して呼吸筋を休めるか、呼吸器を装着して摂食することが望ましいと言われています。

摂食中に呼吸器を装着する場合は、安全に嚥下できることを確認する必要がありますが、通常は数回の練習で呼吸器装着下の摂食が可能となります。

栄養管理

近年、NST活動がさかんとなり、DMDにおいて栄養指標が著しく低下している患者があることが明らかになってきました。この中に、摂食・嚥下障害のため栄養摂取量が不足していることが少なくありません。
対策としては、水分の嚥下は比較的良好であることが多いので、摂取栄養量が不足する場合は、メイバランスなどの栄養補助食品を経口摂取させるなど工夫が必要となります。

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進行性筋ジストロフィーProgressivemusculardystrophyの病型(タイプ)について





筋ジストロフィーは筋線維の変性・壊死を主病変とし、進行性の筋力低下をみる遺伝性疾患です。筋線維の壊死とそれに伴う再生が慢性的に行われる過程で線維化や脂肪変性が出現・進行し、筋量が減少することによって徐々に筋力低下が進行していきます。

運動機能障害を主な症状ですがが、関節拘縮や呼吸機能障害、心機能障害、嚥下障害、消化管症状、骨代謝異常、内分泌代謝異常、中枢神経障害などの合併を認めることも多いです。

筋ジストロフィーの病型について


1Duchenne型筋ジストロフィー(DuchennemusculardystrophyDMD)

DMDX連鎖劣性遺伝形式をとり原則男児に発症します。ジストロフィン遺伝子変異によって筋線維膜直下に存在するジストロフィン蛋白の欠損をきたすことによって生じます。
2歳以降に転びやすい、走れないなどで気付かれますが、発症前にたまたま行った検査で高クレアチンキナーゼ血症が判明し診断を受ける場合も多いです。
5歳頃に運動能力のピークを迎えたのち緩徐に症状が進行し10歳頃に歩行不能となります。
10歳以降に呼吸不全、心筋症を認めるようになるが出現時期や経過に個人差が大きいです。
進行性の側弯症の合併が多く脊柱固定術の適応となる場合があります。

ジストロフィン遺伝子変異を有する女性を保因者と呼び、その多くは無症状ですが、一部成人以降に筋力低下や心筋症を呈する例があります。

2014年に「デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014」が刊行されています。

2Becker型筋ジストロフィー(BeckermusculardystrophyBMD)

DMDに臨床症状は類似しますが、発症時期がより遅く15歳を過ぎても歩行可能ですが、重症度には幅があります。歩行や起立、階段昇降に支障をきたすことが初発症状のことが多いです。

BMDでは歩行可能な時期であっても心筋症を発症する場合があります。
BMDの病因もジストロフィン遺伝子変異によるが、BMDではジストロフィン蛋白の量的質的異常を示します。

3】先天性筋ジストロフィー(congenitalmusculardystrophyCMD)
わが国では先天性筋ジストロフィーのうち福山型(FukuyamatypeCMDFCMD)が約60%を占めます。その他Ullrich型やメロシン欠損型などが存在します。FCMDは重い知的障害、てんかんなど中枢神経症状を合併する日本人に特有の病型です。

乳児期に精神運動発達遅滞で気づかれ、坐位は獲得できる例が多いですが歩行は獲得できない例が大半と言われています。

全身の筋力、筋緊張低下や顔面筋罹患、早期からの手指、股、膝、足関節拘縮が特徴となります。

MRIで多小脳回、小脳内の小嚢胞、白質髄鞘化の遅延を認めます。
学齢期以降に運動機能低下が進行し、10歳以降で心筋症や呼吸不全や嚥下障害、消化管機能障害などを呈します。

平均寿命は15歳程度とされていましたが、医療の向上により延長しています。

血清CK値は数千程度のことが多いです。
fukutin遺伝子がFCMDの責任遺伝子でありFCMD患者の約90%で3'非翻訳領域内における3kbのレトロトランスポゾン挿入変異をホモ接合体で有しています。
本症が日本人に固有である理由として、3kbの挿入変異が日本人の祖先に生じこれが広まったことが想定されています。

4】肢帯型筋ジストロフィー(limb-girdlemusculardystrophyLGMD)

発症年齢は幼児期から成人の50歳代以降までと幅があり、症状の進行にも個人差が大きいです。
また無症候性高CK血症の原因であることもあり、たまたま検査で高CK血症が判明して診断を受ける場合もあります。
近位筋の特に下肢帯の筋力低下による歩行異常、転びやすい、階段昇降困難などが初発症状となります。
多くは常染色体劣性遺伝形式をとりますが、優性遺伝形式の例もあり、優性遺伝はLGMD1、劣性遺伝をとるものはLGMD2と分類され、遺伝子座をもとに分類が行われており現在でも毎年のように新しい病因遺伝子が報告されているが、約半数では病因不明です。

5】顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(facioscapulohumeralmusculardystrophyFSHD)

発症年齢は幼児期から壮年期までと幅があり、成人例では軽い顔面筋罹患程度で本人の自覚症状がほとんどない場合もあります。

典型例は顔面筋罹患と、上肢挙上困難が初発症状であることが多いです。
上肢を外転させても十分にできず僧帽筋が膨隆します。
肩甲帯筋の筋萎縮が著明で翼状肩甲を呈します。
経過とともに下肢帯や下肢に障害が及びます。
筋力低下、筋萎縮の分布が左右非対称となることがしばしばあります。
呼吸障害、心筋障害は他の筋ジストロフィーに比べると合併頻度は少ないが定期評価は必要です。
小児発症例では難聴、知的障害を認める場合があります。
血清CKは高値を示しますが正常例も存在します。
常染色体優性遺伝形式をとり、4q35領域の3.3kbの繰り返し配列の欠失が認められることが本症の病因となります。

6Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(EDMD)

本症では筋力低下が軽度である時期からすでに、肘、手、足関節に拘縮がみられます。また脊柱の可動域制限も認めることが多いです。
心筋症の合併が多く、心房機能不全、A-Vblockといった特異的な所見を呈するようになります。
心電図は初期にはP波の不明瞭化、P-R延長、A-Vblockを呈し、突然死のリスクを有する疾患です。
血清CKは正常の10倍程度までの上昇がみられます。
EDMDにはX連鎖劣性遺伝と常染色体優性遺伝の形式をとるタイプが存在します。
X連鎖劣性遺伝形式をとるタイプではXq28に存在するエメリンの変異によるものです。
エメリン蛋白は核膜に局在します。常染色体優性遺伝形式をとるタイプはlaminA/Cという核膜の蛋白をコードする遺伝子に変異を認めます。核膜蛋白の異常によって筋ジストロフィーが生じる原因はまだよくわかっていません。

7】筋強直性ジストロフィー(myotonicdystrophyDM)

1(DM1)2(DM2)が存在しますがわが国ではほとんどがDM1です。DM1は発症時期の違いによって成人型、小児型、先天型に分類されます。先天型はDM1を有する母(稀に父)から生まれ、新生児期から重度の筋力、筋緊張低下、顔面筋罹患を認め、呼吸障害を伴い人工呼吸管理が必要な例や生後まもなく死亡する例も少なくありません。
嚥下障害、股関節脱臼、関節拘縮、横隔膜麻痺なども伴うことも多いです。

経過とともに改善を認め歩行が可能となる例も多いです。知的障害が全例で明らかになり、成人以降になると成人型の症状を認めます。

小児型は幼児期以降に精神発達遅滞で発症し、知的障害に加えて特徴的な顔貌を認めます。成人型では側頭筋や四肢遠位筋優位の筋力低下やミオトニーのほか多臓器障害を認める疾患で、心病変(心伝導障害、心筋障害)、慢性呼吸不全、嚥下障害、認知機能障害などの中枢神経異常、白内障、耐糖能障害、悪性腫瘍などの合併を示します。

軽症の場合には白内障・耐糖能異常のみを示す場合があります。

本症は常染色体優性遺伝をとり、病因遺伝子はmyotoninkinaseであり、その遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTG繰り返し配列が増加しており、tripletrepeat病の1つです。

健常人ではこのCTGの繰り返し配列は30回未満ですが、患者では502000回程度に延長しています。この繰り返しの数と臨床症状は相関し、成人型<小児型<先天型と繰り返し数の延長傾向を認めます。世代を経るに従ってこの繰り返しの数が増加し、症状は重くなる傾向にあり、これを表現促進と呼びます。