デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchennemusculardystrophy;DMD)患者の平均寿命は人工呼吸器療法などの集学的医療の効果により延長しています。寿命の延長に伴い、嚥下機能の低下が顕在化し、胃痩栄養や中心静脈栄養などの栄養管理方法を選択する例が増加しています。
一般にDMD患者では10歳代から咀噌や咽頭への食物の送り込みなどの口腔機能に異常が現れ、20歳以上では咽頭喉頭の筋力が低下することにより嚥下後に食物が咽頭に残留する頻度が高くなりますが、誤嚥を来す頻度は少ないと報告されています。
DMDの診療ガイドラインでは、口腔機能の低下が始まる10歳代半ばから定期的に嚥下機能評価を行うことが推奨されています。
DMD患者のスクリーニング検査
スクリーニング検査としては反復唾液嚥下テスト(RSST)と(MWST)を実施していますが、DMD患者ではスクリーニング検査の結果を適切に評価できないことが少なくありません。嚥下障害が進行しているDMD患者では、嚥下時の喉頭挙上の動きが弱く、弱い嚥下運動を反復しながら少しずつ嚥下するため、嚥下反射のタイミングを触診だけで判断することが難しい場合があります。
この喉頭挙上が1横指を超えない弱い嚥下運動が観察される場合には、咽頭への食物残留が認められることが多いという報告があります。また、呼吸筋が弱くなっている場合には、検査者にわかるように強くむせることが出来ません。
ただし、DMD患者の場合には咽頭喉頭の感覚が保たれているため、咽頭残留の有無や飲み込みにくさについては比較的正確に自覚されている場合が多いです。
DMD患者の嚥下内視鏡検査
外来またはベットサイドに内視鏡を持参して検査を行います。検査の際には普段食事をしている姿勢をとってもらい、普段の食事中に鼻マスクなどを使用しNPPV換気を行っている場合には呼吸器を装着したまま検査を実施します。内視鏡の先端部分を鼻腔内に挿入する時のみ少しマスクをずらすだけで、その後は通常通りに換気をしながら検査を実施することができます。
嚥下時の咽頭喉頭の動きが減弱したDMD患者では咽頭の唾液貯留や嚥下後の咽頭残留を認めます。ただし、唾液や残留した食物の喉頭内への侵入や誤嚥を認める頻度は高くなく、喉頭内へ食物が侵入しかかると呼気で喀出されている様子を観察することがあります。
これは喉頭の感覚が保たれており、誤嚥しそうになっていることを患者自身が自覚し対処されているためと思われます。
DMD患者の嚥下造影検査
嚥下造影検査の際にもなるべく普段食事をしている姿勢で行い、呼吸器を使用している場合には呼吸器を装着したまま検査を実施します。検査食にはバリウムなどの造影剤入りの水分の他、トロミ水や全粥、米飯、蒸しパンやクッキーなどを必要に応じて使用します。
嚥下造影検査では誤嚥の有無や咽喉頭の動きだけでなく、内視鏡検査だけでは判断が難しかった口腔や舌の動き、食道の動きまで観察を行います。DMD患者では咬合不全や巨舌、舌の筋力低下が出現してくると、咀噌障害や咽頭への送り込み障害が生じ、一度に沢山の量を口腔内から咽頭に送り込むことが難しくなるため食塊をごく少量ずつ咽頭へ送り込む様子が観察されます。
咽頭期では嚥下時の喉頭挙上運動の減弱や嚥下後の咽頭残留を認めます。誤嚥を認めることはまれですが、検査食の形態を複数試しながら、どの形態がより咽頭残留を減らし、誤嚥の危険性を減らすことが出来るのか検査をしながら検討をしていきます。
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