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2月, 2019の投稿を表示しています

統合失調症など重度の精神疾患にみられる認知機能障害の改善を目的とした認知リハビリテーションについて

統合失調症など重度の精神疾患にみられる認知機能障害の改善を目的とした心理・社会的介入法を総称して認知リハビリテーションといいます。認知リハビリテーションでは認知機能障害の改善を通じて究極的には機能的転帰の向上を目指します。 認知リハビリテーションは、薬物療法では認知機能障害に十分な改善が得られないことから、従来、頭部外傷患者の高次脳機能リハビリテーションに用いられてきた手法を応用して開発されました。 海外ではデイケアなどの精神科リハビリテーションで普及しているが国内では比較的新たな手法です。他に「認知機能リハビリテーション」「認知矯正療法」などの表現が使われることがあります。 精神疾患の方への認知リハビリテーションの適応 統合失調症の認知機能障害は前駆期から認められ、急性期に悪化するが安定期にも顕著な改善はみられません。統合失調症のおよそ 8 割が認知機能障害を示し、神経心理検査のパフォーマンスは健常者の平均と比較して 1.5 標準偏差ほど低いといわれています。認知機能障害は大勢の患者に深刻な影響を与える問題だといえます。 統合失調症の認知機能障害のうち、初発から顕著で最も重篤な問題を認めるのは、実行機能、注意、言語記憶と学習です。さらに重度の障害が認められるのは実行機能、言語流暢性、言語学習、覚醒、運動速度とされています。中程度の障害は、作業記憶、注意の転導性、再生記憶、視覚運動、軽度の障害は再認記憶、呼称、知覚機能にみられることが報告されています。 認知機能障害は自立生活能力、対人関係スキル、就労や就学など幅広い側面に影響を与えます。認知リハビリテーションは多様な治療設定で実施され、急性期病棟、外来、就労訓練施設などでの効果が示されていることから、慢性で病態水準が重い患者から高機能の患者まで、幅広い適応が可能です。 なお、認知リハビリテーションは、重度の知的発達障害や、アルツハイマー病などの認知症は適応外となります。   精神疾患の方への認知リハビリテーションの分類 認知リハビリテーションの手法は、①認知機能障害のとらえ方と訓練手法の違い、②学習理論の用い方により分類されます。 まず認知機能障害を回復可能な不全としてとらえる立場からは、反復学習により認知機能を訓練するのに対し、障...

日常生活の改善を目指した認知行動療法について解説

統合失調症の方に対する認知行動療法の目的 近年、「精神病の認知行動療法 CBTforPsychosis(CBTp) 」の効果検証時の主要アウトカムは、症状変化におくべきではないという考え方が広がってきています。 このような背景としては、まず、統合失調症をもつ人々の抱える最大の問題が精神病体験であるとは限らないことが挙げられます。 精神病症状よりも社会的排除やスティグマ、情緒的問題、対人関係の苦痛をより強く感じている者が少なくないことを示す調査結果が複数存在します。そのため、症状の軽減は必ずしも生活の質の向上やリカバリーに十分ではないことの理解が広がってきたのです。 さらに、認知行動モデルによれば、状況をどのように解釈 ( 認知 ) するかが、その後の感情や行動 ( 結果 ) を決めます。精神病体験については、いくつかの認知行動モデルが提唱されているが、心理的苦痛をもたらすのは、精神病体験という状況をどのように解釈するかで、体験そのものではないことを主張している点では共通しています。 そこで、心理的苦痛の軽減のためには、症状自体ではなく、症状に対する認知もしくは行動に介入すべきことがモデルから導き出されます。 症状の改善は苦痛軽減の結果、二次的にもたらされる可能性のある状態であって、第一義的な目的ではありません。 例えば、幻聴の頻度や内容が変わらないとしても、それによる苦痛や、影響された行動が改善すれば、介入の目的は達成されたと考えるということです。 以上のような理由から、現在では、 CBTp を準向精神薬のように扱うのではなく、苦痛軽減と適応的行動の増加をターゲットにして、利用者本人の望む日常生活の改善を目的とした介入として位置づけるようになってきました。 CBTp の進め方 幻覚・妄想への対応に限定しない CBTp の進め方は、うつ病や不安障害への認知行動療法に倣って、以下の 7 段階に分けると考えやすいです。 ①関係構築、②問題リスト作り、③目標設定、④アセスメント、⑤事例定式化 caseformulation 、⑥ホームワーク、⑦再発予防です。   ①関係構築 CBTp における関係構築の特徴は、「柔軟な治療構造」「ノーマライジング」「不同意の同意関係」です。本...

幻覚・妄想症状に対する認知行動療法 (CBT)の定義、適応、手順について

CBT の定義 患者が抱えるさまざまな問題に対して認知・行動の両面からアプローチする認知行動療法 (CBT) は、気分障害・不安障害での治療効果を立証して精神療法の有力な一派となりました。 加えて 1990 年代以降、英国を中心に CBT を統合失調症に適応拡大する臨床研究が進められ、その結果、幻覚・妄想体験などの陽性症状に CBT が一定の有効性を示しうるというデータが報告されました。 現在では、英国医療技術評価機構 (NICE) や米国精神医学会のガイドラインで CBT の実施が推奨されるようになり、わが国の統合失調症治療ガイドラインでも CBT の項目が採用されています。 CBT の適応 幻覚・妄想状態にある患者のすべてが、 CBT の対象となりうるわけではありません。 CBT の適応の目途として、次の「 5 つの C 」というものがあります。 ・ Calmness( 落ち着き ) ・ Communication( 対話 ) ・ Curiosity( 好奇心 ) ・ Comprehension( 理解 ) ・ Cooperation( 協力 ) 特に、患者が curiosity( 好奇心=幻覚・妄想に対する CBT への興味・関心 ) を示さない場合には、 CBT の施行は禁忌となります。そうした際は、「ではそういう治療もあると頭の片隅においておいて、興味が出てきたらおっしゃってください」と伝えて引き下がるようにします。 5 つの C が満たされる場合には、幻覚・妄想症状がみられる精神障害のさまざまな治療段階において実施可能となります。 特に、以下の 4 つのポイントにおける適応が臨床上重要になります。 1 治療導入期の病識 育成幻覚・妄想状態にある患者の多くは病識がなく、治療導入に困難をきたしがちです。患者の病識育成という大きな臨床上のニーズがあり、 CBT に期待が寄せられています。   2 薬物療法 抵抗性の症状への対応薬物療法を行っても、幻覚・妄想症状が十分消退しない症例が少なくないといわれています。こうした際に治療者が薬物療法という治療ツールしかもち合わせていないと、それ以上の介入が難しくなってしまいます。また、多剤併用・大量投...

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