作業所の定義
「作業所」とは、1950年代から設置が始まった施設ですが、法律的に定められた基準はなく、よび名も、「共同作業所」「小規模作業所」「福祉作業所」「小規模授産施設」などさまざまです。
そこには、障害をもった人々の地域での生活を支える基盤が乏しいなかで、「当事者の地域での生活を支える」という熱意をもった当事者、家族、支援者(専門職に限らない)らが、試行錯誤しながら作り上げてきた歴史があります。
いわば、有志による草の根的な活動により発展し、障害をもつ人々にとって、「生活の場」「交流の場」「仕事の場」などとして着実にその機能をはたしてきたのです。
しかし、多くの施設では、資金面、人材面で運営に苦労しているという実情があります。
障害者自立支援法施行後は、地域活動支援センター、就労継続支援A型、就労継続支援B型へ移行しているところも多ですが、市町村間で施設に対しての支援内容は格差があり、それぞれの施設がさまざまなアイデアを出しながら、運営を切り盛りしています。
このように、「作業所」とは、法律や規則によって作られたものでなく、現場から生み出されたものであり、その後もさまざまな困難にぶつかりながらも、当事者の地域での暮らしを支えるために脈々とわが国の精神科分野に根づいています。
作業所の対象者
対象者には、さまざまな人が挙がります。
地域で生活しているが、自宅にひきこもりがちで、何とか外につながるきっかけを必要としている人。
退院後に、病院以外の穏やかな場所で他者と交流する場を求めている人。
就労を目指しているが、一般就労するにはまだ自信がなく、訓練を通して自信をつけたい人。
挙げればきりがないが、大切なことは、本人、家族、支援者が一緒に見学や体験入所をして、本人が「行きたい」「まずは挑戦してみたい」という意思をもつことです。
作業所の内容
作業内容
作業内容はそれぞれの施設により異なり、多岐にわたります。
例を挙げると、段ボール梱包作業、清掃業、喫茶店、ダイレクトメール封入などです。
そのため、まずは、実際にその施設に出向き、確認することが大切です。
なお、作業内容の変更を検討している施設も多々あるので、現在行っている作業内容だけでなく、将来的な内容も確認する必要があります。
作業所の環境
ハード面では、民家を利用したもの、空き店舗を利用したもの、専用の建物を利用したものなど、築年数、広さ、設備面などはさまざまです。
ソフト面では、当事者スタッフ、ボランティア、家族スタッフ、非専門職スタッフなど支援者も多岐にわたります。
そのため、専門職が陥りがちな「症状のみをみる」のではなく、「人としてかかわる」ことが実践され、それが本人のリカバリー(回復)につながっていることがあります。
また、障害者自立支援法施行後は、施設利用者が精神障害をもった人だけでなく、さまざまな障害をもった人々である施設も増えています。
作業所の利用料
利用料に関しては、施設の事業形態や本人の経済支援状態によっても異なるため、利用を始めるにあたって確認が必要です。
作業所を利用するまでの手順
情報収集
日頃から、支援者が情報収集しておくことが大切です。
最近は、インターネット上でホームページを閲覧できる施設も多く、検索が容易になりました。
また、さまざまな情報機関誌に目を通しておくことや、外出時に「おや?」と気になる施設があれば確認すること、支援者間だけでなく、利用者、家族と情報交換をしておくことなどが必要です。
そのときに、作業内容、事業形態、施設規模、場所などを具体的に知っておいたほうが良いですし、一覧表などを作成しておけば、いざというときに大変役に立ちます。
そして、実際に見学してみることで、媒介を通して得ることができる以上のもの、例えば、スタッフ・利用者の人柄、場の雰囲気、スタッフ・利用者の意見などを知ることができるので、見学することをお勧めしたいです。
いくら便利な世の中になっても、臨床において「足でかせぐ」ことが基本であることには何ら変わりはありません。
計画立案
面接に限らず、さまざまな会話のなかで、「働きたいけど、いきなりは……」「日中にゆっくりできる場所があれば……」「同じ悩み、経験をもった仲間と一緒に話がしたい……」「病院以外でくつろげる場所が欲しい……」「日中することがないので、何か暇つぶしでもいいからすることが欲しい」というような内容があれば、計画立案する価値はあると思われます。
個別のかかわりだけでなく、例えば「地域見学グループ」といったグループを作って、そのなかで意思を確認するのも1つの方法です。
支援者と1対1ではなかなか意見をいえない人が、「実は……」とぼそぼそと長年思っていたことを話すことは多々あります。
「仲間」の力を本人のリカバリーに生かす視点を忘れてはなりません。
個別であっても集団であっても、支援者からの一方的な情報提供だけでなく、本人の思いをなるべく具体的にしていくことがのちのちに役立ちます。
ただ単に根掘り葉掘り聞けばよいということではなく(あいまいな思いをそのままにしておくことが必要なときもある)、様子をみながらではあるが、「なぜそのような思いをもっているのか?」「現在の状況をどのように感じているか?」「どのようなことを作業所に期待しているか?」「作業所に通い出したらどのような自分になれるだろうか?」などを一緒に考えてみると良いでしょう。
「作業所の場所が居住地から遠いけど作業内容がよさそう」「自分にはできそうにないけど行ってみたい」などの悩みや、「自分は一般就労していたので、作業所なんか行きたくない」といった意見も出てきますが、そんなときもまずは計画を立てて行ってみるのも1つの手です。
その一方で、本人の思いに共感することも忘れてはなりません。
また、日頃の面接や作業場面を通して、本人の評価(対人関係、生活リズム、作業能力など)を本人とともに支援者が共有しておくことも大切です。
施設へのアポイントメント
計画が立案できたら、見学予定の施設へ連絡することが必要となります。
一般的常識ですが、相手に失礼のないように、こちらの施設名、氏名、見学をお願いしたい旨、理由、希望日時、見学者人数などを伝えます。
連絡は遅くても1か月前にはしておきたいところです。
作業所によって、見学に際しての受け入れ手順はさまざまで、事前の電話連絡だけでよいところもあれば、書類にさまざまな項目を記入したり、公文書が必要となるところもあるので、確認が必要です。
なお、就労継続支援A型事業所については、ハローワークと相談するとよいでしょう。
見学実施
見学当日は、緊張している利用者も多いので、傾聴と共感を心がけて出発し、予定到着時刻に遅れないようにします。
見学中は、見学作業所の雰囲気を壊さないように、見学している支援者の対応に気をつけるようにしましょう。
質問をすることを遠慮している見学者に代わって、こちらがいろいろと質問したり交流を促していくことは大切です。
しかし、それが出過ぎた対応(大きな声、積極的すぎるかかわり、利用者のことを置き去りにしたような態度)になってしまうと、作業所利用者・スタッフが萎縮したり、雰囲気が壊れたり、見学者の意欲が減退してしまいます。
そうなってしまうと何のために見学に来たのかわからなくなってしまいます。
できれば、作業所利用者・職員との意見交換の時間ももてるとよいでしょう。
振り返りと施設利用
見学後、本人の様子をみながら、当日、あるいは日をおいて振り返りをすることは大切です。
見学することで大変疲れる人も多いので、そのようなときは日をおいたり、期日を設定してメモ書きでもよいので、感想を書いてもらってもよいでしょう。
「作業はどうだったか?」「場所はどうだったか?」「距離はどうだったか?通えそうか?」「雰囲気はどうだったか?」「施設スタッフ、利用者はどうだったか?」「行くとしたらどのくらいの頻度で行くか?」などを一緒に振り返る必要があります。
決して支援者の思いを一方的に押しつけるのではなく、本人の思いに共感することが大切です。
こちらは本人にとっての作業所へ行くという決断の重大さを心に留めておく必要があります。
利用する場合はその旨を作業所に伝えて、具体的な調整を行う。残念ながら利用は見送りとなった場合も、作業所にお礼と断りの連絡は必ず入れるようにします。
それが、次の利用者につながる場合もあり、縁を大切にしたいところです。
施設利用開始後の連携
本人が作業所を利用し始めたあとも、定期的に作業所と連携することが大切です。
特に、作業所を利用してしばらくの間は、本人も悩み事が多々出てくることがあります。
よって、支援者は「もう作業所に行き始めたんだから、かかわらなくてよい」という姿勢ではなく、作業所、本人と話し合いながら、必要に応じたつながりを保つことが大切です。
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