精神科デイケア定義
精神科デイケアとは、診療報酬制度に位置づけられた精神科リハビリテーションとしての治療機能の1つです。
回復期にある精神疾患の患者が、他者との交流を通じて人間関係を作り、社会に開かれていくことを支援する場です。
発足時よりデイケアは入院予防や、長期入院者の地域移行の重要な受け手として期待され、精神科地域ケアの担い手としての役割が大きく、実施施設の枠組みは、大規模デイケア、小規模デイケアとショートケア、そしてナイトケアなどがあり、施設基準に見合った職員配置が求められています。
看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理士などの専門職員の支援のもとに、通所者はグループ活動などを通じて仲間作りなどの他者との付き合いになじむことが当面の目標になります。
治療構造は、個別支援の場合もあるが、グループでの活動が基本です。
精神科デイケア治療対象
1974(昭和49)年に初めて診療報酬制度に位置づけられました。
当初は、統合失調症の退院支援、リハビリテーション、再発予防などが目的でしたが、治療対象は「精神障害者」として定義づけられていたおかげで、広くアルコール・薬物依存症などの患者に対しても応用されるようになりました。
その後、うつ病のリワーク活動の専門デイケアや、発達障害のコミュニケーショントレーニングの場としても有効活用され、さまざまな精神疾患が対象にされて発展してきています。
また、2006(平成18)年に障害者雇用促進法が改正されて、精神障害者も障害者雇用の対象に含まれてからは、就労支援をテーマに掲げるデイケアも増えています。
一方で、精神科病院に長期入院をしていた重い課題をもった患者が、地域に戻ったときの日中活動支援の貴重な場になっています。
このように、今では現場の工夫によって、さまざまな精神疾患に対する地域ケアの場として応用されています。
精神科デイケアの治療目標
統合失調症の患者については、被害関係妄想が主症状であった患者が多いために、病状が回復しても他人とともに過ごすのは苦手だという患者が多いです。
「誰かが自分を殺そうとしている」「誰かが悪口や陰口をいっている」「自分だけがのけ者にされている」といった病的体験のあとであるため、人嫌いになり引きこもり状態の生活に陥る外来患者が多いです。
ここから立ち直り、自分の人生を自分の力で組み立てていくためには、他人と社会に緊張感少なく出会えるように成長する必要があります。さもないと、仕事に行くことも、一緒にスポーツを楽しむことすらできません。
そこで、デイケアの第1の治療目標は、「他人と一緒にいられるようになること」です。
実際に、プログラム活動を通して一緒に遊んで楽しむことができれば、他人といることが意外と楽しいものだということを体験できます。
残念ながら、この参加初期の不安を乗り越えられず、数回の通所で中断になってしまう者も多いため、参加初期の導入グループは、気楽に参加できて侵入的でない配慮の行き届いたプログラムがよいです。
ここを乗り越えて、自身がグループのメンバーとしての自覚がもてるようになると、第2の治療目標の「病識の獲得、障害の受容」が課題になります。
医師や専門家からいくら説明されても、自身が「病気」とは受け入れられない者が多いですが、デイケア活動のなかで仲間たちが病気と知って驚き、それならば自分も病気でよいと受け入れられる者が多く、この仲間(ピア)の力が生きるのがデイケアのよさです。
第3の治療目標は「自発性の獲得」が課題になります。
グループに慣れてくると、時には司会を務め活動のリーダーの役割をはたすようになります。
もちろんすべての患者がリーダーを務めるわけではありませんが、個々の個性と能力が活かされることが大切です。
自発性が育ってこそ社会に出て行く力が強くなります。
第4の治療目標は、デイケア活動のなかで人間関係に巻き込まれても葛藤状況をうまくかわすことができるような、「課題解決能力の成長」です。
どんな社会でもストレスはあり、課題解決力や抵抗力がついてくることが望まれます。
こうして第5の治療目標として「再発・再入院を予防する」力が身についてくるのです。
さらに、仲間がいることで孤独感が軽減され再発予防に役立ちます。
第6の治療目標としては、「就労準備性の向上」です。
自発性が高まると就労意欲が高まってくることが多い。そのようなときに、パソコン教室のプログラムなどにより、技術習得とともに就労への動機づけが育つことが多いです。
近年は一歩進めて障害者雇用を実現する患者が増えています。
第7の治療目標は、「地域で暮らす仲間の獲得」です。
就労年齢の時期には、人間関係は職場のなかが中心になりますが、職場以外の場にも仲間がいることが心の支えになります。
特に、高齢になっても街に仲間を得られれば、孤独でなく人生の楽しみを得ることができます。
また、第8の治療目標として、「街で暮らし続けること」が重要です。
10年間以上も精神科病院に入院して、ようやく退院してきた慢性期の患者のなかには、デイケアと外来医療の支援があってようやく街で暮らせている者が多いです。
働けなくとも、この患者たちが入院に戻ることなく、街で暮らすことを維持する長期的な支援は、重要な治療目標です。
このほかに、リワークデイケアでは「現職場への復帰」が当面の課題となります。
発達障害者のデイケアでは「コミュニケーション能力の向上」が重要な課題です。
こうした治療目標に応じて、多職種連携によるケア会議を開き、患者ごとに「疾患別等診療計画」を立てることが求められています。
活動を通しての成長の速度はさまざまであり、半年も待たずに就労する者や、一方で少しずつ対人関係の輪を広げて10年間を経て障害者就労を実現させた通所者もおり、変化のスピードは個人差が大きいです。
そこを理解して、目標設定がなされなくてはなりません。
精神科デイケアでの工夫と評価
デイケアの運営については、施設基準に沿う必要がありますが、通所者の希望に応えてさまざまなタイプのプログラムを工夫する必要があります。
また、1単位のデイケアのなかで複数の小グループが別々のプログラムを実施することによって、通所者自身が場を選ぶことが可能になります。
複数の小グループに分かれて活動を実施することは、以前は施設基準に縛られて制限されていた時期がありましたが、2012年4月の診療報酬改定からは、小グループに分かれて活動を実施することが認められるようになりました。
実際の運営上のグループ分けの工夫は、興味の方向、参加者の年齢層、疾患の違い、体力の程度、就労意欲のあり方、職員の治療方針等々によってさまざまな活動に分けられています。
また、デイケアの実施にあたっては、「個別記録」と「集団活動日誌」(活動記録)が求められています。
さらに、定期的に実施する個別の「評価」が求められており、日本デイケア学会版の「精神科リハビリテーション評価表」が、一般に用いられています(HPからダウンロード可能)。
施設基準上の矛盾
現状の精神科デイケアの施設基準にはさまざまな矛盾があり、運営上の判断に困る場合が多いです。
例えば、小規模デイナイトケアおよびナイトケアは、精神保健福祉士と作業療法士の組み合わせで実施可能ですが、1人でも午後4時に帰宅する者がいれば、この組み合わせでは施設基準違反になってしまいます。
小規模デイケアの職員基準がほかと異なっています。
同様に不合理な基準が実際にいくつもあり、現場の職員は困惑しています。
これは、1990年代の地域ケア推進の時代に、新しいデイケア制度を次々と継ぎ足したために、施設基準の整合性に混乱を残しているのです。
制度全体を見直し、地域ケアを発展させる方向に修正する必要があるでしょう。
精神科デイケアの役割
デイケアの登場は、日本の精神科外来医療にコメディカル職員を増やし、多機能型精神科地域ケアの発展を可能にしました。
近年の実態調査によっても、デイケアは明らかに再発・再入院予防の役割をはたしており、社会機能の回復にも大きな成果をもたらしています。
また、2006年に障害者自立支援法(現在は障害者総合支援法)の施行によって、医療法人も自立支援事業所を開設できることになりました。
こうして、デイケアで就労意欲が高まった通所者を、就労移行支援事業所に導入するモデルが有効性を発揮しています。
精神疾患の回復期の入り口をデイケアが担い、出口を就労移行支援事業が担う連携によって、精神障害者の就労が飛躍的に伸びています。
一方で、長期入院から地域に戻ったなどの重い課題をもった通所者は、就労は困難でもデイケアの支援でようやく地域での生活が維持できている者が多く、地域移行になくてはならない機能でし。
精神疾患は現代の慢性疾患の1つであり、残念ながら短期間の治療で完治するものではありません。
長い自立の努力と周囲の見守りが必要な疾患であり、その面の支援の役割を忘れていけません。
精神科デイケアは、単に精神科リハビリテーションの役割にとどまらず、多職種・多機能の包括的精神科地域ケアが発展するための、中心的機能の1つとして期待されているのです。
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