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小児の在宅ケアについて【医療従事者向け】

近年、小児の在宅医療・在宅ケアに対するニーズが高まっています。
医療の進歩により、人工呼吸器、気管切開、経管栄養などが必要な子どもが増えています。
医療的ケアが必要な子ども(18歳未満)は、人口1万人あたり1~2人といわれていますが、全国統計はまだありません。

病態と診断

対象は、悪性疾患と非悪性疾患に分けられます。
脳腫瘍や肉腫、白血病などの悪性疾患に対する治療後に再発し進行した場合、最期を自宅で過ごすため在宅ケアを希望する子どもがいます。
非悪性疾患の子どもの場合、以下のように大きく3つの流れがあります。
①新生児集中治療室から仮死、染色体異常、先天性障害などで生まれて救命された子ども
②先天性心疾患、代謝異常症、脳炎・脳症、溺水などで小児病棟に入り救命されたが重い障害を残した子ども
③加齢に伴い体が変形したり、誤嚥性肺炎をきたして気管切開や胃瘻などが必要になった子ども
いずれも、人工呼吸器、気管切開、経管栄養、導尿などの医療的ケアが必要な子どもがほとんどです。

治療方針

悪性疾患の子どもに対する在宅ケア

限りある人生を自宅で過ごす子どもには、対症療法と緩和ケアが主体となります。
疼痛に対して医療麻薬、経口摂取不良に対して経管栄養や点滴を行うことがあります。

非悪性疾患の子どもに対する在宅ケア

それぞれの疾患や合併症に対する治療を継続します。
気管切開や人工呼吸器が必要な子どもについては、痰の吸引はきわめて重要です。
肺炎予防と排痰促進のため、水分補給、吸入、肺理学療法、カフマシン、去痰薬などの治療を行います。
胃瘻・経管栄養が必要な子どもについては、成分栄養、経腸栄養(液体・半固形態)、ミキサー食(通常の食事をミキサーで細かくしてシリンジで注入する)のどれを用いるかを状態に応じて検討します。
ミキサー食は、友達や家族と同じものを食べられることや、微量元素も摂取できる利点があるが、胃瘻内径が細い場合には閉塞のリスクがあります。
導尿が必要な子どもについては、導尿の手技と水分補給などについての指導を行います。
医療的ケアについての管理と指導、すなわち気管カニューレや胃瘻については交換、痰吸引や経管栄養の手技指導、イリゲーターや注入用シリンジなど必要な物品供給、閉塞や抜去時などの緊急対応についての準備(気管カニューレは1サイズ小さいものも用意するなど)などが必要です。

リハビリテーション

子どもがリラックスし、楽しく過ごすことは、子どもの体調を安定させ、豊かな暮らしにつながります。
子どもの状態に応じて、肺理学療法、ポジショニング、坐位保持、コミュニケーション支援などのリハビリテーションを積極的に行うとよいでしょう。

子どもの看取り

自宅での看取りを希望する場合には、子どもと家族に寄り添いながら、在宅医と訪問看護師などの在宅ケアチームが連携を密にしながら、不安軽減と症状緩和に努めます。
家族のグリーフケアも必要です。

専門医へのコンサルト

・発熱が持続する、痰が黄色い、酸素飽和度が上がらない、肺雑音があるなどで、生活指導や内服治療を行っても改善しない場合には、肺炎・気管支炎などを疑い専門医へコンサルトします。 ・けいれんの重積、胃瘻の閉塞、人工呼吸器のトラブルなど、専門医の介入が必要な場合にもコンサルトします。 ・家族、特に母親は子どものケアに精通している。母親が「いつもと様子が違う、何かおかしい」というとき(notdoingwell)は、診察をして一緒に考え、必要があれば専門医へコンサルトするタイミングを逸してはならない。

患者説明のポイント

知的障害がある子ども、意思疎通が困難な子ども、臨死期の子どもなど、どんな子どもに対しても、尊厳を守りながら声かけを行います。
家族の24時間介護をねぎらい、1人で悩まないで何でも相談してくださいと伝えます。
自分の時間や思い、兄弟を含む家族の思いも大切にしてくださいと伝えます。
レスパイトケアやさまざまなサービスを積極的に使うことを勧めましょう。

看護・介護のポイント

看護・介護スタッフは、母親の次に子どものことをよくわかっている大人になることを目指しましょう。
子どもの兄弟に対しては、声掛けや時に遊んだりして、「あなたのことを気にしています」という気持ちを伝えるとよいでしょう。

文献

前田浩利 編:地域で支える みんなで支える 実践!! 小児在宅医療ナビ。南山堂、2013

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