機能性構音障害に対する語音聞き取り訓練の種類と方法
語音聞き取り訓練の種類
語音聞き取り訓練とは、正しい構音操作により産生された音と誤り音とを聞き分ける訓練をいいます。
訓練の種類として、語音弁別、音節の分解抽出、同定があります。
訓練の段階として、単音節、単語、文の順に行いますが、それ自体意味を持たない単音節よりも単語のほうが容易な場合もあります。
語音聞き取り訓練の方法
①音の呈示方法として、STが音を呈示する、②子ども自身が産生した音をテープに録音しそれを聞いて聞き分ける、③子ども自身の産生した音を即時に正誤判断する方法があります。
一般に、STの呈示した音を聞き分けることは、子ども自身が産生した音を聞き分けるより容易であるので、こちらを先に行います。
STが産生した音の弁別が可能であれば、テープから聞こえる自分の誤り音の弁別は可能なことが多いです。
即時判断が可能となれば、発話中に自分の誤りに気づけるようになります。
この訓練を行うことで、子どもが自身の誤りを自覚することにつながります。
子ども自身が浮動的にターゲット音を産生可能となっている場合には、自信にもつながっていきます。
その一方で、自覚が意識過剰につながり、発話の減少や吃音を誘発しないよう留意する必要があります。
語音聞き取り訓練は、誤りの種類が置換である子どもの場合、訓練を通して習得することより弁別可能であることを確認する意味合いが強くなります。
誤りが声門破裂音や側音化構音である子どもや成人の場合には、自身の産生した音の弁別に時間を要することも多いです。
訓練実施上の留意点
単音節の聞き取りにおいて、呈示する単音節は何でもかまいませんが、訓練導入当初は誤り音を含むことは避けたほうがよいです。
反応方法に遊びを取り入れたり、何回も続けてターゲット音を呈示するといった方法も、子どものモチベーションを高めることに役だちます。
単語レベルにおける音節の抽出・同定の訓練においては、文字が読める子どもの場合、文字で位置を認識してしまい聞き取りの訓練にならないことがあるので、文字は呈示しません。
逆に聞き分けが困難な場合には、文字を呈示してヒントとしてもよいです。
単語レベルにおける聞き取り訓練においては、STはプロソディーがヒントとならないよう注意します。
ターゲット音と誤り音の弁別が困難な場合、誤り音以外の音との組み合わせから行うこともできます。
/t/と/k/では弁別できていないが、/t/と/p/あるいは母音との組み合わせであれば弁別可能なこともあります。
組み合わせの難易度は、上記のように構音点、構音法が似ていない組み合わせが比較的容易です。
対象の難易度は、比較すべき音が語頭語尾にある場合、語中にある場合よりも容易なことが多いです。
文における比較は単音節・単語に比べ困難ですが、文レベルは語音聞き取り訓練を行わなくても可能となることがあります。
語音聞き取り訓練の進め方
語音聞き取り訓練
音・音節レベル
ターゲット音(正しい音)と、ターゲット音以外の音(誤り音)として、それらを交互に聞かせ、正しい音かどうか正誤判定させます。
ターゲット音以外の音には、訓練開始時は子どもがすでに獲得しており、かつ、ターゲット音と音響特性や構音(調音)特性において音としての差異が大きい音から開始し、しだいに差の少ない近似音、そして実際の誤り音として表出されている音というように移行していきます。
例として、/tʃi/をターゲット音とした場合、すでに両唇音が獲得できていれば、誤り音を/mi/から開始します。
そして構音特性の近い音へと進み、最後には類似性の大きい/ʃi/の弁別訓練を行います。
正誤を判定するための標識については、テレビのクイズ番組に出てくるような○と×の札を用意し、正誤判定でどちらかを指してもらう、訓練者と養育者が交互に正しい音と誤り音を発音し、どちらの構音が正しかったかを当てるようなゲーム感覚のものでもよいです。
また文字を獲得している場合は、ターゲット音となる音の文字と誤り音を示す文字を使って、どちらに聞こえたかを判定させます。
単語レベル
ターゲットとなる音を含んだ単語について、訓練者が正しい音、または誤り音を子どもに聞かせて、その正誤の判定をさせます。
原則として、ターゲット音と誤り音の設定に。音節レベルと同じように、音響特性における音の差異が大きいものから始めるようにします。
単語の音節数は、2音節のように音節の少ない単語から多い単語へと移行していきます。
文レベル
ターゲット音を含んだ単語を文中に入れ、その文章を聞いて誤り音を指摘させます。
音節の分解・抽出・同定訓練
単語を聞き、そのなかに含まれる音節の数を分解します。
また、それらの音節のなかに含まれる、ある特定の音を抽出し、その音の単語における位置を同定します。
音節の分解訓練
2音節語を訓練開始語とし、ゆっくりと訓練者がその単語を言い、子どもは単語を繰り返しながら該当する音節の数だけ積み木やおはじきを置きます。
または置いてある積み木に、その単語の音節の数だけ触れます。
各単語の音節と、それに対応する音節数を視覚的にマッチングさせる練習です。
2音節語で可能となれば、3音節語、4音節語と音節数を増やして練習します。
この課題は、かな文字の習得と関連が深いといわれています。
また、市販のトーキングカードには、同じ音節を何回か聞かせ、その音節がいくつあるかを当てさせる課題があります。
音節の抽出訓練
該当する音が、単語の音節のどこにあるかを探し、抽出する課題です。
子どもの前に、音節数だけ記された枠を用意しておきます。
抽出の反応例として、単語を「たいこ」、抽出する音節を「た」とした場合、訓練者は「たいこ」とゆっくりと言い、それから「『た』はどこにありますか」と質問します。
子どもには、前に置かれた枠のどこに「た」があったかを指してもらいます。
ここでは、いちばん最初の音節に該当する枠を指せば正解です。
枠の代わりに数字を用意し、該当する音節の番号を言ってもらう(この場合の答えは“1”)のもよいです。 音節の分解訓練と同じく2音節語で、かつ子どもがすでに習得している音を含んだ単語から開始し、習得していない目的音へと移行していきます。
市販のトーキングカードでは、信号機の3色(青、黄、赤)と対応させ、指定された音が語頭に出てくる場合は青、語中の場合は黄色、語尾の場合は赤と答えさせる課題があります。
また刺激語は、絵を用意し、答えの音に該当する音節の位置を音声刺激なしで抽出・回答させるなど、より難易度の高い課題も用意します。
音節の同定訓練
音節の抽出訓練と同じ枠を用意し、枠のある1か所におはじきを置いたり、マーク(「?」マークなど)を記入し、訓練者が提示した単語の音節のなかで、おはじきを置いた音節の部分にはどのような音があったか、子どもに答えてもらいます。
例として、訓練語を「たいこ」とし、3番目の枠におはじきを置いた場合の答えは「こ」です。
また、しりとりや、ある音のつく単語を挙げる(例:頭に「さ」のつくことばを挙げる)など、ある音節のつく単語を想起させるような「ことばあそび」は、音節の同定に有効な課題です。