在宅療養者や病院・施設に入院・入所している多くの高齢者は、ADL(日常生活動作)の低下や障害のために、口腔清掃状態が悪化し、口腔機能が低下している方が多い。
口腔ケアは単に口腔清掃(器質的口腔ケア)をするのみではなく、口腔機能の維持・回復(機能的口腔ケア)をも提供するもので、口腔疾患のみならずさまざまな全身疾患を予防しQOLの維持につながります。
「食事を美味しく食べる」という人間としての根源的要求を叶えるためにも、生活環境、介護度、疾病の有無、残存歯の有無などを問わず、すべての療養者に口腔ケアは提供されなければなりません。
口腔ケア実施者について
在宅の現場では口腔ケアにかかわる職種は多く、医師、歯科医師、歯科衛生士、訪問看護師、訪問薬剤師、訪問管理栄養士、介護職、リハビリ職、介護支援専門員、などが挙げられます。
療養者本人、療養者を支える家族を加え、絶えず新しい情報を交換・共有しながら、身体の状態に応じた正しい口腔ケアを多職種で協働して提供することが大切です。
口腔ケアの実際
口腔清掃(器質的口腔ケア)について
口腔内の食物残渣、感染源となるデンタルプラーク(細菌)は含嗽やブラッシングなどで除去しなくてはなりません。
可能な範囲で療養者本人(セルフケア)に行ってもらいますが、ADLの低下、手技不良のため、除去しきれず残留していることも少なくありません。
そのため、家族や介護職によるブラッシングの介助は必須となります。
定期的に歯科医、歯科衛生士が専門的な口腔ケアを行い、介助者は適切な清掃法の指導を受けながら日常の口腔清掃を継続実施することが求められます。
口腔機能回復(機能的口腔ケア)について
口腔機能の低下は、低栄養、脱水、誤嚥、窒息、食べる楽しみの喪失などを引き起こしADL、QOLに多大な影響を及ぼします。
在宅では、反復唾液嚥下テスト(RSST)や改訂水飲みテスト(MWST)などで、口腔機能を評価し、可能であればプランに基づき、食物を用いない間接訓練や食物を用いた直接訓練を行います。
間接訓練には、のどのアイスマッサージや、頭部挙上訓練、唾液腺マッサージ、呼吸(咳嗽)訓練などがあります。
直接訓練は療養者本人の意向を尊重し、体位や食形態を工夫して誤嚥の防止を図りながら安全に行います。
訓練を行うに当たっては、医師や言語聴覚士、嚥下認定ナースなどに訓練プランを立ててもらうとよいでしょう。
在宅では家族とともに楽しみながら行えるケアが継続性も高く効果が上がります。
口腔清掃と口腔機能回復訓練の両者を最大限活用することは誤嚥性肺炎の予防に有効です。
しかし、療養者やその家族の協力が必要で、認知症や精神障害を有する場合実施困難となることもあります。
在宅口腔ケアの課題
多くの在宅療養者、家族、介護職は正しい口腔ケア法の指導を専門職から受ける機会がほとんどありません。
口腔の状況が悪化しやすく、悪化しても気づくことなく見過ごされてしまいます。
口腔疾患の進行や摂食嚥下機能低下、誤嚥性肺炎発症など多くのリスクを招いているのが現状です。
そのため、在宅訪問歯科診療制度などを活用して在宅口腔ケアを利用することが望まれます。
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