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きょうだいげんかの理由や意味について言語聴覚士が解説!

大人からの注目


すでに子どもがいる家庭に、またひとり子どもが生まれると、きょうだいという関係が生じる。
このきょうだいの出現は、まったく自然なことなのだが、当の子どもたちにとっては非常に大きな生活環境の変化である。
家庭のなかでの最初の子どもは、多くの場合、両親やその他の家族の注目を一身に浴びながら育つ。
ここでいう注目とは、視線を向けること、声をかけること、笑顔を向けること、指示すること、叱ることなど、子どもにあらゆる種類の信号が送られることを指す。
注目を受けることは、人間にとって行動の原動力となる。
新たな料理に挑戦して、「おいしかったよ」「新しいレパートリーが増えたね」などと言われると、この料理をまた作ってみようと、さらに新たな料理に挑戦しようという気になる。
仮に、「いまひとつ、おいしくないな」と言われても、それはそれで、今度はもっとうまく作ろうとか、残念だったけど次はもう少し工夫してみようなどと思うものである。
しかし、まったく何の反応も得られないと、新しい料理に挑戦しようといった意欲がそがれていってしまう。
乳幼児期は、大人に比べて、よい子でいたい、よい子であることを認めてもらいたい、あるいはいろいろなものごとが“できる"ことを認めてもらいたいという素朴な気持ちを持ち、またそれを素直に表出できる時期である。
幼児の生活には、周囲の大人が与える注目が、より大きな影響を及ぼしているのである。
きょうだいが生まれると、周囲の大人から与えられる注目が激減する。
大人の注目はより小さい子どもに向けられることが多いので、注目の減少は、半減以上のものがある。
そのため、きょうだいが生まれることは、それだけで子どもにとっては大きなストレッサーをかかえることになるのである。
このようなときに子どもは、赤ちゃん返りをしてより幼い時期に特徴的な行動をしたり、不適切な行動をして親や周囲の大人の注目を取り戻そうとさまざまな努力をする。

自己主張と譲歩


きょうだいが生まれてしばらくたつと、きょうだい間での争いが生じることがある。
子どもは2~4歳頃に第一反抗期を迎え、親の意図とは別個に自らの意図を主張したり自ら物事を決断したいということを主張するようになる。
これが自我の芽生えと呼ばれるものだが、年上の方の子どもがこの段階に達すると、周囲の大人はある程度自分の意図にあわせて調整してくれるのに、そのような調整ができない年下の子どもや近い年齢の子どもは年上の子どもの意図にあわせて調整してくれない。
そのため、年上の子どもと年下の子どもとの間での争いが生じ始めるようになるのである。
やがて、年下の子どもも第一反抗期に達して自己主張を始めるようになると、年上の子どもと年下の子どもの間の争いはさらに頻度が増す。
それは、双方が、自分の意図を行動や言葉で主張できるようになってきたのに、それを調整する能力がまだ十分に育っていないためである。
子どもが、他者との間での意図の違いをある程度の譲歩でもって調整できるようになるのは、自我が芽生えて自己主張を始める時期よりも遅れ、また、幼児は、目の前の物や事態に左右され、先々の展開を予測して今現在の欲求を抑える能力がまだ不十分である。
そのような理由から、目前の物や出来事をめぐって争いが生じることが多いのである。
このような自己調整能力は、幼児期から児童期にかけてゆっくりと発達し、また非常に個人差の大きな領域でもあるため、きょうだいげんかは、乳幼児期に発生し、児童期ぐらいまでの間にずっとみられる現象となる。

タテの関係


親子間の関係や保育者や教師と子どもとの間の関係は、自己調整能力に圧倒的な差があり、一般にタテの関係と呼ばれる。
幼児期から児童期にかけてのタテの関係のなかでは、親や保育者または教師などの子どもの周りの大人が、子どもの欲求を受け入れたり、あるいは子どもがうまく調整していけるようにリードしていく。
一方、同年齢の学級集団や年齢の近いきょうだいの関係は、若干の能力差のなかではぼ対等に渡り合うヨコの社会である。
近年の子どもたちは、かつてギャング集団と呼ばれたような異年齢集団で過ごす経験が減っているようであるが、このようなタテの関係を体験できる機会を意図的に企画することが必要な時代になったのかもしれない。
子供たちは、タテの関係のなかで、葛藤や争いを調整していく能力が、実践のなかではぐくまれていくのである。
大人は、子どもたちが体験する、きょうだいや同級生たちとの間での葛藤や争いを、ときには見守り、ときには双方の主張を代弁したり整理したりし、あるいは解決のためのヒントを提供したり上手な解決法のお手本を示してあげたりしながら、子どもたちの自己調整能力の発達を促すと良い。
その際に、我慢したり譲歩したりする子どもの精神的な努力を誉めて導いてあげることが非常に大切である。
このような教育的介入の方法のひとつとして、社会的スキル指導(SST)があげられる。

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