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誤嚥性肺炎の予防と栄養管理などのケアについて言語聴覚士が解説!


今回は、高齢者においてよくみられる誤嚥性肺炎の予防と栄養管理などのケアについて説明していきたいと思います。

誤嚥性肺炎の病態と評価・診断方法

病態について

高齢者では、認知症の進行や摂食嚥下機能の低下、全身機能の低下などにより誤嚥性肺炎を発症することがあります。
発熱や炎症を伴う誤嚥性肺炎を繰り返すと、栄養状態の悪化やADLの低下をきたすため、まずは誤嚥性肺炎を繰り返さないための予防が大切となります。
そのためには口腔内を清潔に保つことに加え、摂食・嚥下機能の評価と食事の工夫を含めた栄養管理が重要となります。

摂食・嚥下機能の評価について

検査結果は藤島の摂食、嚥下能力グレードや、才藤の摂食・嚥下障害の重症度分類などで段階分けをします。

栄養管理について

摂食・嚥下グレードに準じて、嚥下食や嚥下訓練食など食事の工夫が必要となってきます。
嚥下調整食の分類については、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食分類2013」を参照すると良いでしょう。
「嚥下調整食分類2013」はこちらからPDFファイルで開くことができます↓
嚥下機能が正常でも、十分な栄養量を確保できない場合は、メイバランスミニなどの栄養補助食品などで補充する必要があります。
また、食事量が十分でない場合には、Na・Kなどのミネラルや亜鉛・鉄などの微量元素が不足するので注意する必要があります。

誤嚥性肺炎の治療方針

嚥下機能評価の結果、少しでも経口摂取が可能な場合は経口摂取を継続することが望ましいのですが、重症の嚥下機能障害がある場合は経口摂取継続による誤嚥性肺炎再燃のリスクもあるため、患者や家族に対しては十分に説明を行い、相談していく必要があります。
また、経口摂取のみで十分な栄養補給が難しい場合には、ほかの栄養ルートについての検討が必要となります。
十分な栄養量が確保できない期間が長期化することで栄養状態とADLの低下をきたし、その後の治療に難渋する場合があるため、食事摂取状況を観察し栄養障害をきたす前に判断することが望まれます。

経口摂取のみで栄養補給可能な場合の対応方法について

通常の食事、または誤嚥が認められた食品について検討すれば3食経口摂取が可能なことが多いです。
高齢者の多くが誤嚥しやすい水分に関しては、増粘剤で粘度をつけることで改善される場合が多いですが、その場合には増粘剤の適正使用について十分に指導する必要があります。

経口と代替栄養が必要な場合の対応方法について

3食経口摂取が可能でも、代替栄養が必要な場合には、栄養補助食品を併用し必要栄養量が充足できるように栄養プランを作成する必要があります。
栄養補助食品には、液体・ゼリー状・ムース状などさまざまな形態があります。
また、味の種類もおかず系のものやデザート系のものなど種類が多くあるので、何種類かを組み合わせて使用することで飽きずに継続することができるため工夫すると良いでしょう。
一部経口摂取が可能・お楽しみとしての摂取が可能な場合は、栄養補助食品の併用だけでは必要栄養量を充足することが難しいため、経口摂取以外の栄養ルートの検討が必要となります。

経口不可な場合の対応方法について

経口摂取以外での栄養ルートを検討する必要があります。
基本的には消化管を使用することが第1選択になるが、高齢者の場合は倫理的適応も含めて本人・家族と十分に相談する必要があります。
また、重度の嚥下機能障害や認知症がある場合でも、身体機能の回復や栄養状態の改善により経口摂取可能になる場合もあるため、変化を見逃さない日頃の観察が大切です。

経腸栄養

経鼻胃チューブ・経鼻十二指腸チューブ・経鼻腸チューブ
鼻から胃、空腸にチューブを入れ非侵襲的に栄養投与できるため短期間の栄養法として適しています。チューブの違和感があり、誤嚥性肺炎のリスクが高まるため長期間使用する場合には適しません。
胃瘻・腸瘻
チューブによる違和感や苦痛がないため、長期の経腸栄養法として適しています。瘻孔周囲の栄養漏れが起こる場合がありますが、半固形栄養剤の選択により改善される場合が多いです。

経静脈栄養

末梢静脈
必要栄養量を投与することが難しいため、栄養障害の改善には適しません。短期間の栄養管理において選択すべき方法です。
中心静脈
2週間以上の長期間での使用に適しています。適応については日本静脈経腸栄養学会が作成した「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」を参照すると良いでしょう。
「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」は下記のリンクからPDFファイルを開くことができます↓
低栄養状態にある高齢者に経腸栄養法や静脈栄養法を開始する場合には、早期の合併症としてリフィーディング症候群を発症する可能性を必ず念頭におき、栄養投与量の増量中は呼吸機能、心機能、神経症状(脱力、意識障害、痙攣など)などについて厳格なモニタリングを行います。
同時に、ビタミンB1 や亜鉛欠乏症にも注意を要します。
発症予防には、初期投与エネルギー量の制限と緩徐な増量、適切なビタミンとミネラル類の補給が大切です。

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