認知症の病態について
認知症患者のケアは認知症の原因疾患により異なります。
また、対応の仕方はその重症度や本来の人柄・性別により異なるため、そのケアは詳細な病歴聴取から始まります。
原因疾患の主なものは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症があり、それぞれの特徴を説明していきます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は認知症の約6割を占めます。
年齢とともに頻度が増え、85歳以上の高齢者の約半数が罹患していると言われています。
典型例では短期記憶障害、日時の失見当識、場所の失見当識の順に、ゆっくりと進行します。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は認知症の約2割を占めますが、見逃されていることが多いといわれています。
レビー小体型認知症は、パーキンソン症状を伴い、症状はよいときと悪いときの差が大きく、ありありとした幻覚を訴えることが多いです。
また、抑うつ、不安、心気症状、レム睡眠行動異常も出てくることがあります。
他人の前では緊張しておとなしいため、周囲に病状を理解されにくい特徴があります。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は認知症の約2割を占めます。
脳血管障害発症から3か月以内に認知障害を呈した例が主に該当します。
障害部位により症状が異なり、まだら認知症と言われています。
進行はしばしば急激で、多くは脳梗塞発作のたびに「階段状」に病状が悪化します。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、頻度は低いですが、若年性認知症の原因疾患として重要です。
侵された部位により症状が異なりますが、家族や周囲の出来事を意に介さない、周囲の人に気を使わない、仕事をしなくなり自身の変化や障害に対する病識が失われるといった特徴があります。
認知症の診断に必要な知識
詳細な病歴聴取から上記の診断がつけられることがあります。
発症が数日以内のように急な認知障害ではせん妄かどうかの鑑別が必要です。
また、reversible dementiaとよばれる脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症や甲状腺機能低下症などの治療可能な原因も、もの忘れ外来では約1割強存在するといわれています。
採血のような自院で可能な検査は初診時に実施しておくと良いでしょう。
歩行障害や言語障害、尿失禁などがある場合や病歴だけでは診断に自信がもてない場合は、CT、MRI、SPECTといった画像診断を依頼します。
また、うつ病の可能性は常に念頭においておきたいところです。
認知症の治療方針について
認知症に対するケアの方針
初診の患者であれば、患者やその介護者とよりよい関係をつくることがその後のケアに影響するので注意します。
また、認知症の症状については具体例を挙げて聞いていくと、より詳しく把握できます。
人柄については初回の診察では話を聞くのが難しいかもしれませんが、折に触れて、話題に出すと良いでしょう。
診察の前に、看護師に話を聞いておいてもらうのも1つの方法です。
認知症ケアの目的は、介護者に認知症という病気を理解してもらい、患者とその介護者との関係を保つです。
そのため、まず介護者に行うのは、認知症という疾患の説明です。
原因疾患がわかっていれば、それに合わせた説明をします。
認知症者の介護者への対応
以下には頻度の高い、アルツハイマー型認知症についての説明を例として提示します。
- アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる可能性がある薬はあるが、元に戻すことはできず、症状は徐々に進行することを説明します。
- 患者本人が一番苦しんでいることを説明します。
- もの忘れなどの病気の症状を注意・叱責しすぎないようにし、患者に残されたよい部分にできるだけ目を向け、それを認めるよう指導します。
- 患者本人ができることはそのまましておき、できないことをさりげなく手助けするよう指導します。できないことを無理に訓練させてはならないと伝えます。
- 介護者だけで抱え込まないよう伝えます。
1.では、どのように進行していくのかという予後を説明しておきましょう。そうすることで今後、例えば食べられなくなってきたときに、胃瘻を造設するかどうかの相談がしやすくなります。
2.と4.では、もの忘れをすることで、患者自身は焦りや不安を感じていることが多いことを伝え、患者の気持ちを介護者に想像してもらうと良いでしょう。患者がもの忘れを否定したり、取り繕ったりするのは、周囲から注意や叱責を受けたくないという思いからの行動である可能性を説明します。患者自身はできないことが次第に増えてくるので、できないことを周りが手助けすることが大切であると伝えます。
5.では、認知症の症状の悪化やBPSD(behavioraland psychological symptomsof dementia:認知症に伴う行動と心理の症状)の予防には、患者と周囲との関係性や、本人の情緒が安定していることが重要であることを伝えます。認知症の患者には自分の思い通りに物事が運ばないという不安や焦燥感があります。
それは実は認知症という病気のためなのですが、患者は病気のためであると理解し納得することがなかなかできません。本質的な支援は、寂しさや不安、喪失感などを和らげてあげることです。
そのためには、介護者に気持ちの余裕があることが大切であり、1人で思い悩むよりも専門家や周囲の人の力を借りるよう伝えます。
徘徊、妄想、暴力などの困った症状も適切な対応や薬物療法で乗り切れることが多いため、早めに相談するよう勧めましょう。
その際、場合によっては、精神神経科の専門医に薬の調整を依頼することもあると説明しておくと、今後、その必要性が生じたときにスムーズな対応が可能です。
また、介護者が患者のことを理屈では理解していても、実生活で何度も同じことを尋ねられたら、嫌になるのは当然です。
患者の次につらい立場にある介護者にもサポートが必要です。
介護保険の説明と介護サービスの提案を同時に行い、主治医以外にも、ケアマネジャーという相談役をみつけておくことを勧めます。
このように、認知症患者のケアはそれぞれの患者やその介護者に合わせた個別的なものです。患者とその介護者からよく話を聞き、その患者に合わせたケアを一緒に考えていくという姿勢が大切です。
その際、医師1人では限界があるため、看護師やケアマネジャーらの力を借りて、チームでケアに当たるようにしていくと良いでしょう。
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