乳児院や養護施設などでは、子どもが、汚れてにおい立つような毛布やタオルケットを常に持ち歩く姿がまれに見受けられる。なぜ、毛布なのだろうか?
この問いに対しては、ハーロウによるアカゲザルの赤ちゃんによる実験がヒントを与えてくれる。
愛着を抱かせる刺激
ハーロウは、生後すぐにアカゲザルを母親から引き離し、母親の代わりに2種類の代理母親のもとで生活させた。代理母親の一方は、むき出しの針金でできており(ハードマザー)、もう一方は針金の上をやわらかい布で覆われた構造になっていた(ソフトマザー)。
8頭の生まれたてのアカゲザルを1匹ずつ檻に入れ、その檻のなかにはハードマザーとソフトマザーの両方の代理母親がいる。8匹のうち4頭は、ハードマザーの胸に仕掛けた哺乳びんからミルクを飲み、残りの4匹はソフトマザーの胸に仕掛けた哺乳びんからミルクを飲むという2種類の条件を設けた。
そうして、アカゲザルの赤ちゃんが、どちらの代理母親のもとにいる時間が長いかを測定した。
結果は、ハードマザーとソフトマザーのどちらの母親からミルクを与える条件でも、アカゲザルの赤ちゃんは、明らかにソフトマザーにしがみついて生活する時間が長かったのである。
このことは、アカゲザルの赤ちゃんは、生まれながらにして柔らかな感触のものを求める性質があることを示している。
ハーロウはまた、同じようにソフトマザーとハードマザーに育てられているアカゲザルが母親から離れているときに、動くおもちゃをそばに置いてみた。
赤ちゃんザルは恐怖を感じて、どちらの母親から授乳されているかにかかわらず、ソフトマザーの方に飛んでいってしがみついた。
さらにその後は、ソフトマザーから少し離れたおもちゃに関心を示し、またソフトマザーにしがみつくことを繰り返しながら、徐々におもちゃへの関わりを持つことができるようになったのである。
移行対象
このような現象は、人間の赤ちゃんにもみられる現象で、母親(愛着対象者)との間で安定した信頼関係を築けている子供は、母親との間での視線の交換を繰り返しながらその能力を伸ばしていくことができるのである。
下記の絵はスヌーピーのキャラクターで知られる有名な漫画のカットである。
このなかで頬に毛布をあて指をしゃぶっているライナスは、常に毛布を手放さず、彼の心を不安定にさせる事態に遭遇したとき、このようなしぐさで安心感を取り戻そうとするのである。このようなしぐさで安心感を取り戻そうとするのである。
乳児期には、安心感の源は母親の存在であり、声であり、抱擁であったりする。
幼稚園に入園したばかりの幼児は、園内で何かトラブルがあると母親の呼び名を呼んで泣く。
この頃までの子どもにとって母親は無条件に子どもの悲しみを受け入れ、あらゆる問題を解決し、必ず味方になって助けてくれるスーパーな存在なのである。
ところが、幼稚園には常時母親がいてくれるわけではない。
そこで、母親の代わりのものとして、母親を思わせる柔らかな存在であるところの毛布が、母親に代わって彼の安心感を取り戻させる材料となるのである。
このようなお気に入りの毛布やぬいぐるみなどを移行対象と呼んでいる。
この移行対象は、一般に母親を思わせ安心感の源になる一次的な移行対象から、友達のような人格を持ったぬいぐるみのような二次的な移行対象、さらに、自分の分身として存在する三次的な移行対象へと移り変わっていくのである。
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