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レビー小体型認知症と進行性核上性麻痺の方の摂食嚥下障害への対応

レビー小体型認知症と進行性核上性麻痺の方の嚥下障害の特徴

レビー小体型認知症と進行性核上性麻痺で、もっとも重篤な嚥下障害の所見は誤嚥です。
誤嚥は声帯を越えた異物の侵入と定義され、固形物よりも液体で観察されることが多いです。
解剖学的な構造上、声帯より下方で異物の侵入を遮るがないため、誤嚥量が多ければ、そして咳漱による異物の排出がなければ、異物が肺野まで流れ込み、肺炎を起こします。
レビー小体型認知症では不顕性誤嚥(ムセのない誤嚥)が多く、患者もその家族も重篤な嚥下障害に気づいていないことが多いです。
誤嚥はレビー小体病患者の肺炎発症のリスク因子であり、VFで誤嚥したレビー小体型認知症患者の検査後2年以内の肺炎発症率は83%です。
それに対し、誤嚥を認めなかったレビー小体型認知症患者の2年以内の肺炎発症率は4%に過ぎません。
レビー小体型認知症患者の嚥下造影検査(VF)では、口腔期の異常は50%、咽頭期の異常が17人85%に認められると言われています。
そして、レビー小体型認知症患者の45%は口腔期と咽頭期の両方に異常が認められます
レビー小体型認知症患者の口腔期の動きは認知機能と相関がある一方で、咽頭期は認知機能と相関しないとされています。
進行性核上性麻痺では嚥下障害が80%に現れ、死因は肺炎が最も多くなります。
進行性核上性麻痺は発症早期には嚥下反射の惹起は良好ですが、進行すると嚥下反射の惹起も遅くなります。
また、無動寡動のため口腔期の障害が強くなり、食物の送り込みが困難になります。
進行性核上性麻痺は、レビー小体型認知症に比べると誤嚥した時にむせることが多いが、むせたときの呼気流速が弱くなり、やがて肺炎を繰り返すようになります。

レビー小体型認知症と進行性核上性麻痺の方の摂食嚥下に影響する病態とその対応


レビー小体型認知症と進行性核上性麻痺の摂食嚥下には認知機能や運動機能の障害が影響します。 レビー小体型認知症は覚醒レベルの変動や起立性低血圧のため、食事中に急に覚醒レベルが低くなることがあります。
そのため、食事中の覚醒レベルが低いと、誤嚥や窒息のリスクが高くなります。無理に食べさせず、覚醒レベルが改善してから食事するようにして対処します。
覚醒する時間帯がバラバラであったり、一度に食べられる量が少なかったりする場合は、食事の回数を多くするなどして対応をするとよいでしょう。
レビー小体型認知症患者で、「食物に虫がいる、虫が見える」といった幻視や「食物に毒が入っている」といった妄想がある場合、錐体外路症状が出にくい非定型抗精神病薬を試す場合があるそうです。
その場合、過鎮静に前頭葉徴候がある進行性核上性麻痺患者は黙々と食物を口に運び続けることがあります。 嚥下のスピードよりも捕食のスピードが速いと激しくむせ、口腔に詰め込んだ食物を吹き出すことがあります。 介護者は声掛けし、口の中に食物を詰め込まないようにペーシングします。 注意が散漫な進行性核上性麻痺患者は窒息を起こしうるため、食事以外に気を惹くものを避け、声掛けするなどして食事に集中させる必要があります。
摂食動作に影響する運動機能の障害として、どちらの疾患も無動寡動が現れます。無動寡動が強いと、嚥下においては咀囑に時間がかかるようになり、舌による口腔から咽頭への食物の送り込みも悪くなります。
そういった場合は、食物のサイズを小さくし、まとまりを持たせると食べやすいことがあります。
また、レビー小体型認知症では口腔での食物の保持が悪く、口唇から食物が洩れたり、不用意に咽頭に送られた食物が誤嚥の原因になったりすることがあります。
そのような症状を認めた場合には、トロミをつけて対応します。
進行性核上性麻痺では頸部が後屈位になると口腔に入れた液体が意図せずして咽頭に流れ込み、誤嚥の原因になります。 このような場合にもトロミで対応するとよいでしょう。
誤嚥が疑わしい患者には、誤嚥性肺炎の予防のため、口腔の知覚神経を刺激する口腔ケアは有効です。
食事中の姿勢は、レビー小体型認知症ではしばしば上体は前屈し、頸部は後屈します。
頸部の筋強剛が強くなければ、上体を起こすことで、頸部後屈は解消されることが多いです。 上体を起こした姿勢は、食道での食物の通過も良くなります。
上体を起こすことが困難な患者であれば、食卓を低くし、頸部が過伸展しないようにします。 進行性核上性麻痺はむしろ上体が直立で、頸部は伸展位になります。頸部の過伸展は咽頭での食物の通過を障害するだけでなく、誤嚥の原因になりうるため危険です。
できるだけ下顎を引いた姿勢をとるように調整します。
また、眼球運動制限のため下方視ができない進行性核上性麻痺患者は、捕食の際、食物をよくこぼします。 食卓を高くして食物が視野に入るように調整したり、捕食しやすい食具を導入したりして対処するとよいでしょう。

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