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ホールディング、オブジエクトプレゼンティングについて言語聴覚士が解説!

ホールディング

乳幼児は柔らかくて暖かな存在を求め、その近くに身を置くことによって安心感を得て生活していく。
ウイニコットは、母親が子どもの安心感を保障するこのようなシステムをホールディングという言葉で示している。
ウイニコットは、母親の機能として、子どもを抱き支えるホールディング、子どもをあやし大切に扱うハンドリング、さまざまな対象や人的環境を差し出し経験させるオブジェクトプレゼンティングという3つの機能をあげている。
このなかで、ホールディングとは、子どもを抱き、支える機能である。
これは、単に物理的に子どもを抱っこしたり支えたりすることだけを指すのではない。
生きている世のなかのほとんどの事柄がまだわからない、理解できない、人生のごく早期の乳幼児にとっては、ホールディングされることによってまず安心感を得る。
そして、人格を持った存在として大切にハンドリングされることによって徐々に自己の存在や大切さに気づき、さらに、さまざまな経験を与えられるオブジェクトプレゼンティングのなかで対人関係をひろげ、少しずつ外界の様子を学び適応していくすべを身につけていくのである。
子育ての初期においては、普通、子育ての主役は母親になる。
これには、女性にしか妊娠や母手しの授乳ができないこと、また、妊娠期間からおなかのなかの子どもと一体感を持って過ごすことなどの生物学的な条件や、社会や文化の背景が大きく影響しているようである。
この時期は、さまざまなことに注意を向けなければならない一方で、生活上の多くの制約を受けている、非常に大変な時期なのである。
そして、子育ての主役となっている母親を精神的に抱き支えることが、父親をはじめとする家族の大切な役割なのである。
「お母さんは、お父さんをはじめとする家族にホールディングされていてはじめて、わが子をホールディングできる」のである。
母親を支え、また、配偶者としてその他の家族のホールディングをリードするという父親の役割は、つい見過ごされがちだが、子育ての重要なポイントなのである。

オブジエクトプレゼンティング

正高信男は、絵本の読み聞かせ実験を通して、より積極的な父親の役割を述べている。
彼の行った実験は、1歳半の女児に対して、計34人の男子学生が子どもに向かって絵本を読み聞かせを行うというものだ。

育児語

女性が乳幼児に語りかける際には、平常時より声が高くなったり抑揚が誇張され、マザリーズまたは母親語と呼ばれている。
実験では、男性が読み聞かせを行った状況でも、平常時より声が高くなったり抑揚が誇張されたりした母親語が出現していることが示され、育児語という言葉で呼び換えている。
男性の読み聞かせの声は、音の高さ自体は、もともとそれほど高くはなく、乳幼児が相手だからといって女性ほど高くなることはないのだが、抑揚の変化の幅は女性によるそれを上回っている結果となっている。

オブジエクトプレゼンティングについて

さらに一連の実験のなかで、このような男性による育児語の特徴は、読み聞かせる絵本の内容によってその効果が異なることが明らかにされている。
つまり、クマや汽車を題材にした楽しく可愛い内容の絵本では、女性による母親語のほうが子どもの注意をひきつけ楽しい雰囲気をかもし出す傾向が高いのだが、オバケや怪獣が出てくる怖い内容の絵本では、逆に男性による育児語のほうが乳幼児の注意をひきつける効果が高いのだ。
子どもが生活する環境は、必ずしも安全な環境ではない。
家の周りの側溝やストーブのそばなどの危険な場所では、子どもの活動に制限を加えなければならないことがある。
ストープに手を伸ばそうとしたわが子を見て、母親がとっさに金切り声をあげて子どもを制止することがある。
とっさの場合にはこの方法はもちろん有効だが、普段から言い聞かせておくためには、男性すなわち父親による育児語の語りかけのほうが効果を発揮するようである。
子どもが生きていく世界は、楽しいものや可愛いものだけではない。
怖いもの、畏れるべきものをも経験させていくオブジェクトプレゼンティングは父親の得意技だと考えられる。
正高は、子どもを外の世界へ導き、困難に立ち向かうことのできる存在へと発達させるために見守り、必要に応じて手を差し伸べ、前方へと踏み出す手助けをする、たんなる“もうひとりの母親"ではない父親のあり方を提案している。

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