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子供の言葉の習得の過程【模倣説】【生得説】について言語聴覚士が解説!

はじめての言葉

人間の乳児は1歳前後から言葉を話し始める。
個人差はあるが、2歳の時点ですでに100ぐらいの言葉を話し、500ぐらいの言葉を理解することができる。
言葉を話す能力は、ある時期が来ると急に現れるわけではなく、それ以前にも言葉を話すために必要なさまざまな準備段階を経ている。
また、言葉をしゃべることができるようになった後も、大人と同様の文法に沿った会話ができるようになるには、もう少し時間がかかる。

言葉を覚える道筋:模倣説と生得説

子どもが言葉を覚えるようになるには、どのような過程をたどっていくのだろうか。
たとえば、中学生になって初めて英語を学習する場合、単語や文法を先生から教わったり、教科書を読んだり、書き取り練習をしたり……と言葉を習得するためには特別な勉強が必要になるが、子どもが母語(親と同一の言語)を覚える際には、多くの場合親が特別な教授をしたり、子どもが特別な訓練をするわけでもなく、言葉を自然に習得していく。
子どもがこのように自然に言葉を覚えていくメカニズムについては、さまざまな説がある。その代表的なものをいくつかあげてみよう。

模倣説

模倣説とは、親の言葉がけを中心として、テレビやラジオの音声など、周囲に子どもが聞くことのできる言語刺激がある場合、子どもはそれを物まね(模倣)することによって言葉を獲得するというものだ。
子どもは出生後に放っておかれただけでは、自動的に言葉をしゃべれるようにはならない。つまり、出生後の生育環境が重要なのだ。特に重要なものが、母親をはじめとする人的な環境である。
特に出生後間もない乳児は、母親との密接な1対1の関わり(母―子相互作用)のなかでその後の成長、発達に必要となるさまざまなことを学習するが、言葉もその一つであるといえる。
はじめのうちは模倣しているかどうかもわからない物まねが、やがて模倣の対象である親がようやく理解できる程度になり、その模倣によって親子の間のコミュニケーションが続けられていくうちに、段々とはっきりとした、意味のある言葉へと変化していく。
また、言葉の発達の遅れについて、知的発達の問題と並んで、言語的な環境が一つの要因になると考えられている。すなわち、たとえば親がとても早口であったり、極端に子どもへの言葉がけが少なかったりすると、子どもは模倣を通した言葉の獲得が困難になり、言葉の発達に遅れが生じる可能性があるのである。

生得説

生得説とは、言葉を獲得するのには遺伝的に規定された仕組み(普遍文法)があるという考え方だ。従来、子どもが言葉を覚え、話すことが可能になるための条件としては、親をはじめとした周囲の豊富な言語的環境が必要であるとする模倣説が有力とされてきたが、近年の研究のなかでは、生得説の重要性が指摘されている。
実際、「言葉を獲得する(可能性を持つ)」という能力は先天的、つまり人間という種に生まれながらにして備わっているものである。また、たとえば、言葉自体は親の模倣の役割が大きいとしても、乳児は生得的に周囲の音や音楽よりも、人間の声や言葉に対してより高い感受性を示している。
このことは、周囲の環境から人間の言葉を選択し、言葉を模倣しやすい状況を作り出すことができることを意味し、これは環境の知覚におけるバイアス(偏り)理論とも呼ばれている。
さらに、言葉の獲得や言語発達の基礎にある認知発達は、ほとんどの子どもが表2に示したような、ある決まった道筋をたどる。この道筋が規定されていることも、ある程度は環境に左右されない、生得的な側面があることを示すものといえよう。

遺伝も環境も大切

環境の影響を重視する模倣説と、遺伝的要因を重視する生得説という2つの理論は、どちらか一方のみが重要、というわけではない。
現在では出生後の言語環境と、生得的な側面とのどちらも言葉の発達に深く関係があり、また、この二者は互いに影響を与えあっていると考える、相互作用説が主流となっている。

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