初語そして一語文へ
初めての言葉(初語)は一般的には生後10~12か月に発生することが知られている。初語は「ママ」や「ブーブー」「マンマ」など同音の反復で構成されている場合が多く、口唇を閉じた状態から開くことで発生する子音である/m/や/p/、/b/などの音韻が使用されている場合が多いといえる。
もともとはコミュニケーションの機能をもっていなかった哺語がジャルゴンの段階を経て初語となるのである。
初語の時期の特徴としては、第1に幼児は単語レベルで言葉を発するのであって一続きのいわゆる文章では話せない。第2に彼らが発生する単語の多くが成人が普通に使っている単語ではなく、いわゆる幼児語(「犬」に対して「ワンワン」、「猫」に対して「ニャンニャン」など)である点だ。
第1の特徴「一語文」について
第1の特徴である単語単独の発声であることを「一語文」と呼んでいる。
しかし、この場合、幼児は1個の語彙として、あるいは1個の名詞として発語しているというのではなく、そこにははるかに多くの機能を同時に含んでいる場合が多いのである。
たとえば、食べ物のことを「マンマ」と発語したとき、その意味は「あっ、食べ物がある」とか「この食べ物を食べたい」とか「あの食べ物をこっちに寄こせ」とかいろいろな意味の可能性があり、機能的には、単なる叙述から要求、意図などいろいろなものが含まれている。
すなわち、単語1つであるけれどもそこには1つの文としての機能をもつ表現であることから「一語文」と呼ばれているのである。したがって、幼児が発語する一語文の意味やその解釈は、単にその前後の文脈的なものだけでなく一語文が発せられた相手との関わりを抜きにはできないのである。
そのため、児童期に発達する不特定多数の聞き手に一方向的に発話していく「二次的ことば」と区別して「一次的ことば」と呼ばれている。
「一次的ことば」の特徴
「一次的ことば」の特徴としては、①1対1の対話的関係のなかで機能するもので話し手と聞き手が交互に交代しながら行うキャッチボールのようなもの、②その相手は生活を共にするなかで経験を共有できる特定の親しい人であること、③その場で起きていることや共有している経験の具体的内容が発語されること、④言葉だけでなく場面の状況からその内容を理解することがあること、をあげている。
第2の特徴「幼児語」について
第2の特徴である幼児語において重要なのは、幼児が幼児語を独自に創作しているのではなく、同一の言語圏や文化圏では一定の社会文化的共通性がある言葉であり、養育者が児に対して使用する言葉でもあるということである。
しかし、一方で幼児一人ひとりが発語する幼児語が表現する意味は各幼児において個人的なものであることが多く、ある幼児にとっては「ワンフン」が「犬」だけでなく4本足の動物全体を指す表現(般用現象)であったり、ある幼児にとっては自分の家で飼っている特定の犬に対して限定的に使用される。
したがって、幼児語が成人で用いられている単語の単なる言い換えではないことは重要だし、当然のことながら、このことは前述の「一次的ことば」であることと深い関連をもつのである。
命名期と語彙の増大
この初語から児の語彙が飛躍的に増大するかというとそうではない。1歳半まではむしろあまり語彙は増えず、「潜伏期」と表現されている。
急激な言語発達が生じるのは1歳後半から2歳のときである。1歳後半の幼児が「これなに?」としきりに尋ねるいわゆる「命名期」に入って語彙は飛躍的に増大するのである。
この時期の幼児の心性に「象徴機能」と呼ばれるものが強くなり、いろいろなものを何かに見立てたり、シンボルを使用する能力が急速に発達することがその背景に大きく存在している。
この象徴作用は、幼児がこの時期にいろいろな「モノマネ」たとえばテレビ番組のヒーローのしぐさを真似たりする行動に見出すことができる。象徴化のプロセスが内的に高まっているということの重要性は、言葉がシンボルそのものであることを考えれば当然である。
2歳には200~300語、3歳時には1000語程度の語彙を獲得し日常の言葉のやりとりがほぼ不自由なくできるようになる。
また、2歳頃の命名期以前では名詞が大半であったものが、命名期以降、二語文の獲得とともに、動詞・形容詞・副詞などが獲得され2歳半までにほぼすべての品詞がそろうといわれている。
理解言語と発語可能言語について
発語する言語の獲得をその過程は下記のとおりです。
①自分では発語できないが他人の言葉の意味はわかり、動作や行動を示す「理解の段階」
②呼吸機能や発声機能をうまく調整しながら構音器官の運動を適切に制御することによって、言語音を正確に発声させる構音能力が要求される「模倣の段階」
③理解や記憶している語を発語する「生産の段階」
理解言語が発語に先行する結果、幼児期においては理解言語の数が発語可能な語彙数を上回っているし、理解言語自体の数の正確な測定も困難なことから、一般に「語彙」といえば発語可能言語を指している。
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