乳児には、親の行動もまねる能力がある
昔から、「子は親の背中を見て育つ」「子は親の鏡」「この親にしてこの子あり」ということわざがあるように、親は子どもが世のなかのことを理解していく上で貴重な存在であるといえる。
親から学ぶ上で、子ども、特に赤ちゃんがもっている能力としては、模倣と社会的参照をあげることができる。赤ちゃんには、舌を突き出す、口を開ける、唇を突き出すというそれぞれの表情の模倣がみられる。これを共鳴動作と呼ぶのだが、ちょうど一方の音叉を鳴らして他方の音叉に近づけたときに、ふるえて音が出るように、大人の表情に対して、同様の表情をつくる。これがすでに生後1か月未満の赤ちゃんに見られることがあるのだ。
ところで、生後間もない赤ちゃんが自分の表情を客観視することなく、大人の表情を模倣できるというのは不思議なことである。
この点に関して、赤ちゃんが自らの動作によって、親の動作に一定の変化が起こることを発見することに喜びを感じると言われている。
たとえば、赤ちゃんが「あっうう」と声を出せば、親がその声をまねることで、赤ちゃんの働きかけに応答する。そうした親による赤ちゃんの行動の模倣を、赤ちゃんはおもしろがって、繰り返す。親も、それに応えて、また模倣する。
そうしたやりとりが繰り返された結果、赤ちゃんは大人の表情や動作という「手がかり刺激」に対して、同じ表情や動作で反応するようになると言われている。
その後、8~9か月くらいになると、モデルの声やしぐさが観察されたすぐ後に模倣するといったように、模倣も意図的になり、特に、興味を覚えたものが模倣されるようになる。
例えると、テレビを見て興味を引いたキャラクターの声やふりをまねるようになる。さらに、1歳半ばくらいになると、ある程度時間が経過した後に、模倣が見られるようになる。
これを延滞模倣というのだが、かつて見たり聞いたりしたものが表象(イメージ)として記憶のなかに定着していることをうかがわせられる。例えば、親のなかには、普段あまり意識していないような言葉ぐせやしぐさを、あるとき突然赤ちゃんがまねて、思わず苦笑した経験がある人もいるのではないか。
親の表情を参照する能力
一方、親の反応をみて、赤ちゃんがすべきかどうかを決めているようにみえる行動がある。これを社会的参照行動という。このとき、親が安心した表情や徴笑みを示すと赤ちゃんは進んで行動するが、不安な表情を示すと行動するのを止めようとする。
この社会的参照行動は生後すぐに見られるものではなく、外にある環境やモノと親の表情との間に関係づけを行うことができるようになってから起こる行動である。海外の研究では、こうした参照行動がおよそ10か月を過ぎた頃からみられることがわかっている。
しかし、日本の赤ちゃんは、親の表情を参照する行動をとらないようである。社会的参照で用いられる情報には、視覚的断崖の実験で検討された「喜び」や「恐れ」といった「情緒の情報」と、顔の向きや視線の先など、人が何に対して関わっているのかという「関与の情報」があるとしている。
日本の赤ちゃんは、「情緒の情報」よりも「関与の情報」を有効視しているようであること、また、視覚的断崖の実験の追試では、社会的参照行動はあまりみられず、むしろ、手で崖の部分を叩いたりするなど、そこが渡れるかどうかの実験的行動を取っていることが示された。
このように、赤ちゃんの模倣や社会的参照は、まだ十分解明されたとはいえないが、赤ちゃんが親という対象をとおしていろいろなことを学ぶこと、そして、学ぶために最低限必要な能力を備えていることが伺えるのではないか。
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