個人特性としての気質(個人特性の性格)
赤ちゃんには新生児期から個人特性があることは一般に知られています。
こうした個人特性は性格という呼び方ではなく、発達心理学的には【気質】と呼ばれています。
気質は「生得的な基礎があり、生まれてまもなくからその特徴が現れることが多く、ある程度の持続性、安定性が見られる。しかし個体の養育される環境の影響を受けて多少とも変化する」とトマスが定義しています。
気質には以下のような9つの側面があります。
その9つの側面とは、活動性、接近性対回避性、生理的機能の規則性(周期性)、順応性、易刺激性(反応閾値)、反応の強さ、機嫌(気分の質)、気の紛れやすさ(気の散りやすさ)、注意の範囲と持続性、を指します。これらの各側面の程度を指標にして乳児の個人差をとらえていきます。
トマスはこの9つの側面の程度をまとめて、気質タイプを、【扱いにくい子どもたち】【エンジンのかかりにくい子どもたち】、【扱いやすい子どもたち】の3種類に分類しました。
【扱いにくい子どもたち】の気質
【扱いにくい子どもたち】は、寝起きや排泄、空腹状況などの生理的リズムが不定期であったり、周囲の環境の変化に馴染むのが遅いという特徴があります。
そのため、親が子に対応する際に予測が立てにくかったり、子どもの要求を満足させにくかったりします。その結果、親が扱いにくいという感覚を持ってしまうことが多いようです。
【エンジンのかかりにくい子どもたち】の気質
【エンジンのかかりにくい子どもたち】は、行動開始にかかる子、新規的な状況に順応が悪い、という特徴があります。こうした子どもも、親にとっては手のかかる子となってしまいます。
【扱いやすい子どもたち】
【扱いやすい子どもたち】は、生得的なリズムが規則的で、変化へ順応性が高く、気分が安定しています。
主な気質の分類方法
1)ThomasSChess(1986)によるもの
〈9次元〉
➀活動水準:身体運動の活発さ
➁接近/回避:新規な刺激に対する積極性/消極性
➂周期性:睡眠・排泄などの身体的機能の規則正しさ
➃順応性:環境変化に対する慣れやすさ
➄反応閾値:感覚刺激に対する敏感さ
➅反応の強度:泣く・笑うなどの反応の現れ方の激しさ
➆気分の質:親和的行動/非親和的行動の頻度
➇気の散りやすさ:外的刺激による気の散りやすさ
➈注意の範囲と持続性:特定の行動に携わる時間の長さ/集中性
(気質タイプの3種類)
1.扱いにく子どもたち
回避+新奇な刺激に対する消極性十ゆつくりした 順応十非親和的行動+激しい泣き、笑い反応
2.エンジンのかかりにくい子どもたち
最初回避−やがで接近+最初ゆっくりした順応−やがで順応
3.扱いやすい子どもたち
接近+規則正しい身体機能+すばやしい順応+積極的な親和的行動+マイルドな泣き笑い反応
2)Buss8Plomin(1984)
(3次元)
➀情緒性:苛立ちやすさ・臆病さ・怒りっぽさ
➁活動性:生活テンポの速さ・エネルギッシュさ
➂社会性:親和性の高さ
3)Rothbart(1981)
➀活動水準:身体運動の活発さ
➁肯定的な情緒表現:ポジティブな情緒表現の頻度
➂注意の持続:興味の持続性
➃鎮静性:ネガティブな情緒状態からの回復性
➄恐れやすさ:新規な刺激に対する積極性/消極性
➅フラストレーション耐性:行動制限をされた時の怒りっぽさ
母子の個人特性と母子相互作用
乳児期において、母子間に深い愛情関係が形成されることは心の発達にとって、とても重要なことです。
そして、この母子間の愛情形成過程には、子ども側と母親側との双方の個人特性が影響し合っています。
子ども側の個人特性としては、これまで述べてきた、乳児が生まれながらにもっている気質の違いがあげられます。
子どもが扱いにくい気質をもっている場合、子どもの反応の意味が読みとりにくくなるので、親の応対のタイミングが遅れたり、親が自分の育児に自信を失ったりすることが生じます。
一方、親の側の個人特性としてあげられるのが、【敏感性】という母親の特質です。
敏感性は、母親がどれだけ、子どもの出す反応の意味を正しく理解し、タイミングよく反応できるかを示しています。
そのため、たとえ扱いにくい気質をもった子どもであっても、敏感性の高い母親のもとで養育されるのであれば、母子間に安定した愛情関係が形成されると言えます。
他方、たとえ扱いやすい子どもであっても、敏感性の低い母親が養育した場合、愛情関係が不安定になってしまう可能性があります。
このように、生まれたての乳児にも個人特性が認められ、母子双方の個人特性が母子の愛情関係の形成に影響を与えているのです。
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