産まれた時から赤ちゃんはお母さんの顔を見ることができるのか?
赤ちゃんの眼は生まれたときから見えている生まれたばかりの新生児は眼がまだ見えないと思っている人が未だにいるようである。
しかし、早期産児を対象にした種々の実験でも、受胎後8か月以降の胎児はもうすでに視覚機能が働く可能性を示唆されている。
出生直後の多くの新生児は「眼が見えている」のは明らかと言えるが、ただ、ここで注意しなければならないことが2つある。
第1に、彼らは「ピントを合わせる」ことができなのである。たいていの場合、彼らの眼のビントは眼前25~30センチメートルに固定された状態となる。逆にいうと、そのあたりにある対象物だけが「見える」ともいえる。
第2に、細かい部分まで正確に見るだけの解像度をもっていないのである。
新生児は人の顔を見るの好き
人間の初期認知能力に対するパイオニア的貢献としてファンツの研究が極めて興味深いものがある。
彼は、選好注視法(PL法)という方法を用いて生まれたばかりの新生児が種々の視覚刺激に対して「選択的に」反応することを明らかにした。
ファンツは、生後5日以内と生後2~6か月の新生児や乳児を被験者として、「人の顔」「弓の標的」「新聞紙面」「白色」「黄色」「赤色」の6種類の円盤状の視覚刺激の中からランダムに選択された2枚の図版を児の眼前に、左右に並べて提示し、それぞれの刺激図版に対する総注視時間を求めた。
結果は、生後5日以内の新生児でも「人の顔」に対して最もよく視線を向け、さらに、そこに何らかの図柄がないのであれば色だけの刺激に対して長く注視した児は1人もいなかったことを報告している。
すなわち、新生児は「人の顔」に対して明らかな選好注視を行い、「人の顔」への好みを明確に持っているというのが分かったのである。
自分自身の顔かたちに対する理解や知識もないと思われる新生児がこうした生まれながらの「人の顔」への「選り好み」傾向を有していることは多くの意味を感じさせる結果だ。
眼前25~30センチメートルの意味
人の顔を新生児が明らかに「見ようとする」傾向があることは、その後の種々の研究でも明らかにされている。
ここで、あらためて考えなければならないのは、前述の新生児の眼の「ピント」の問題だ。
暗い胎内でピント調節機構が機能しなかったことは当然だとしても、なぜ新生児はそこにピントを合わせて生まれてくるのか?
それは、眼前25~30センチメートルの距離、それは新生児が養育者の胸に抱けれた時にちょうどその距離に養育者の顔があることになる距離なのである。
まさに、赤ちゃんは「生まれた直後から親の顔を見ようとしている」と言えるのだ。
しかし、ここで重要なのは、ただ単に眼前25~30センチメートルの距離に親の顔が存在しているということではなく、母親の胸に抱かれているという状況においての眼前25~30センチメートルの距離ということだ。
このことは赤ちゃんにとって、もっとも心地良いとも考えられる状態において見えるものということを意味している。
加えてお母さんの優しい眼差しが赤ちゃんのお母さんを見ようとする力を増強させているようにも思える。
出生直後から、人の顔を特別に見ようとすることは、そのまま「親の識別」ができることを意味しないことは明らかである。
新生児の眼の解像度の低さを考えれば他人と養育者を、細かな顔の特徴で区別することは困難だと考えた方が自然だ。
生後6か月頃までに、ピント調節がある程度可能になり、比較的細かなものを識別する能力(解像度)が飛躍的に上昇すると言われている乳児において、「人見知り」や「8ヶ月不安」と呼ばれる現象がその直後に現れることがあることに注目すべきことである。
「人見知り」とは、見知らぬ人やなれない人に対して、乳児が拒否的にふるまう現象として広く知られていて、「人になつかない」現象と理解されるが、一方で親(養育者)を識別し、親になついているからこその現象であることが重要なのである。
ここで、親を識別しているということが明らかだとしても、その手がかりが乳児の眼を通した親の顔特徴のみというわけにはいかない。
嗅覚や触覚そして聴覚などから入ってきた情報が総動員されている可能性があるが、いずれにしろ、こうした自分の親の認知が、這い這いなどの手段を用いて親の元を離れて行く可能性がある以前に確立されることにこそ、大切な意味があると言えるのではないか。
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