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人工足関節置換術と術後のリハビリテーション

人工足関節置換術の概要

①人工足関節置換術の実際

人工関節置換術は関節軟骨のすり減りや関節の構造的な破たんにより痛みが生じていたり、運動に障害が生じていたりする症例に適応され、破壊された関節と人工関節を入れ替えることで痛みや運動障害を改善させることを目的とした術式です。
この術式はほとんど股関節や膝関節において適応されるのですが、実は症例数は比較的少ないものの足関節にも適応があります。
人工足関節置換術の適応となる主な疾患は変形性足関節症や進行した関節リウマチです。しかし前述のとおり、実際に行われている人工足関節置換術の症例数は股関節や膝関節と比較すると大幅に少なくなっています。この理由は足関節の構造にあります。
一般的に足関節と呼ばれる距腿関節は、腓骨と脛骨からなる関節窩に距骨の関節頭が入り込むようにして構成されています。これらは「ほぞ」と「ほぞ穴」という比喩をされることが多いように骨同士がパズルのようにぴったりとはまっているため、骨性の安定性が非常に高い関節です。
さらに、距腿関節の周辺には距骨下関節や距踵関節、ショパール関節(横足根関節)といった関節が多く分布しています。この構造により衝撃や自重をはじめとした外力はそれぞれの関節に分散されるため、他の関節と比べると変形性関節症が生じにくいのです。
以上の理由により人工足関節置換術の適応となる症例数は少数となっています。

②特に適応となるケースが多い症例

人工足関節置換術の適応となる症例は主に変形性足関節症や関節リウマチですが、その中でも両下肢ともに罹患している症例や、距腿関節の周辺に位置する関節にも罹患がある症例により優先して人工足関節置換術が選択されます。
また対象者が50歳以上の高齢である場合、足関節内外反変形が15°以下と軽度である場合もより高い優先順位で選択されます。
なお、変形性足関節症には他にも関節固定術などの選択肢があるのですが、前述のような罹患の仕方である場合に実施してしまうと極端に足関節の動作性が低下してしまいます。
このため、術式を選択する際の優先順位としては低くなります。

③手術の方法

人工足関節置換術では脛骨と距骨のそれぞれにコンポーネントと呼ばれる人工関節の部品が装着されます。
手術では障害の生じている元の骨を切り取り、骨セメントやスクリューを用いてコンポーネントを固定します。
足関節の前方からアプローチするため、どの組織が侵襲されたのかを事前に把握しておくことが必要です。

人工足関節置換術に関連するリハビリテーション

人工足関節置換術に関連するリハビリテーションは術後の機能回復を速めるため、術前から行われます。
また術後はギプスや装具による固定期間があるため、術後の動作制限だけでなく固定による合併症にも考慮して介入することも重要です。
以下では時期を追ってリハビリテーションの内容や治療目標などをご説明します。

①手術前

術前は術後の機能回復を速めるためのリハビリテーションが行われます。主に行われる内容は関節可動域訓練と足関節周囲筋群の筋力トレーニングです。
特に術後は固定や手術の侵襲による筋力低下がみられるため、足関節底背屈、内がえし、外がえしの各運動方向について筋力トレーニングを行い、事前に筋力向上を図ることが必要となります。
特に腓骨筋群は強化することにより外側への安定性が向上するため、重要視されています。

②手術直後(術後10日間~2週間、抜糸まで)

術後は固定による関節拘縮予防を目標として、なるべく早期からリハビリテーションが開始されます。この時期はギプスにより足関節が固定されているため、足関節周囲関節である足趾の屈曲伸展を中心に行います。
また免荷状態ではありますが、離床が可能な症例であれば日常生活動作の機能維持を目標とした介入も開始されます。例えば車椅子への移乗動作練習や平行棒内での歩行練習などで、非術側下肢のみでの動作方法を練習します。
なおギプス固定をしている期間であることから、ギプス障害について配慮する必要があります。ギプスにより患部が固定されていると循環障害やしびれをはじめとした神経障害が生じるリスクがあるため、足趾の色や温度、痛みやしびれの有無、動作性などを確認することが重要です。
また、術創部の回復や関節可動域の改善の妨げとなる浮腫の予防も行われます。ギプス固定中は下腿三頭筋の収縮によるポンプ作用が得られない期間であるため、リンパ液などの水分が足にたまらないように臥位では下肢を挙上する、椅子に座る際は下肢を台に乗せておくなどの生活指導を行います。なお、関節可動域訓練として行う足趾の運動も浮腫予防には効果的です。
以上のリハビリテーション内容は抜糸が行われる術後10日から2週間程度行われます。

③術後早期(術後2~3週、ギプス除去まで)

抜糸後はギプスがヒール付きの短下肢ギプスに変更されて部分荷重も許可される時期で、歩行練習も荷重下で開始されます。また、抗重力筋や立位バランス能力に寄与する殿筋群をはじめとした股関節周囲筋群や、大腿四頭筋やハムストリングスをはじめとした下肢筋群などの筋力強化を行うことも、歩行の安定性を向上させるために重要です。歩行練習は荷重量の調整が容易な平行棒や歩行器、松葉杖を用いて開始されます。荷重量は10~15㎏程度から開始し、疼痛の程度を見ながら増減の調整を行います。 この期間は術後3週でギプス固定が終了するまで継続されます。

④ギプス除去後(術後3~4週)

術後3週からはギプスが除去され、足関節の可動域訓練が開始されます。長期間の固定期間が設けられていたためギプス除去直後は関節が硬くなっており、また下腿三頭筋の伸張性は低下しています。
このため急激な他動運動を行うと疼痛が生じてしまうので、はじめは自動での足関節底背屈運動や、下腿三頭筋のストレッチなど愛護的な内容から開始されます。このようにこの時期は自動的な運動が中心となるため、自主トレーニングを行うことも重要です。
自主トレーニングでも十分なトレーニング効果を得ることができるよう、ゴルフボールなどを用いた足底のリラクセーションとストレッチや、タオルやセラバンドなどを用いた筋力トレーニングなど、必要に応じて道具を利用した方法を指導します。

⑤術後4週以降

術後4週からは疼痛も軽減してくるため荷重の許容量が増加し、全荷重まで可能となります。この時期以降は運動を中心としたリハビリテーションが行われるようになり、より日常生活への復帰に直結した内容へ移行していきます。
術後4週では歩行補助具による上肢支持を徐々に減少させていくため、歩行器や松葉杖から、T字杖を使用した歩行へと移行していきます。全荷重は可能ですが、術側下肢への負担を軽減させるために杖は健側に把持するよう指導します。
健側に杖を持つことで、歩行中に術側下肢単脚での支持期をなくすことができ、術側の足関節への負担を軽減させることが可能です。また全荷重が許可されているため、疼痛が治まればカーフレイズによる下腿三頭筋の筋力トレーニングや、独歩練習も開始することが可能となります。
術後2か月以降は基礎的な歩行練習だけでなく長距離歩行練習も開始し、社会復帰を目標としたより具体的なリハビリテーションが行われるようになります。
また足関節の動作方向も拡大させることが可能となるため、底背屈以外にも内がえしや外がえしも運動に取り入れられます。ただし、開始直後は自動運動による愛護的なアプローチを選択することが必要です。
このように術後2か月程度で最低限の日常生活を送るために必要なリハビリテーションを、おおむね行うことができるようになります。さらに術後3か月からは通常の歩行だけではなく、小走りや足関節への負担が軽度であればスポーツへの復帰も可能となるため、より高いレベルの日常生活を送ることが可能となります。

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