伝導失語の病巣
Wernicke領域とBroca領域の間の伝導障害を考える場合に重要視されてきた経路は、弓状束です。弓状束は、聴覚連合皮質に源を発し、シルビウス溝の後端を後上方へ回り、縁上回、中心後回の下部、前頭弁蓋の深部を前方へ走り、Broca領域に達する線維束で、上縦束の一部を構成しています。
古典的には弓状束を含む病巣で伝導失語が起こることが知られていますが、その損傷部位としては縁上回を中心とする下部頭頂葉病巣が多いといわれています。
弓状束の前部の損傷で伝導失語を生じたという例は非常にまれで、前部の外科的切断では復唱障害を起こさなかったという報告があります。
古くから白質の損傷よりも皮質の損傷を重視する考え方もありますが、最近、弓状束に限局した病巣で伝導失語を生じた例が報告されています。また、側頭葉病変でも伝導失語が起こりますが、この場合、言語の左半球への側性化が完全な症例で弓状束の起始部を損傷する小病巣の場合と、Wernicke領域に病巣があるが右側頭葉で聴覚的理解が行われていると考えられる場合があります。
縁上回損傷による伝導失語は、その病巣の近さから、口舌顔面失行の合併が多いと考えられますが、DeRenziらの検討では伝導失語の1/3に口・顔面失行がみられたに過ぎないとの報告があります。
一方、シルビウス溝よりも下方を主体とする病巣例では失行を合併しない場合があります。