伝導失語の復唱障害に関するメカニズム論





伝導失語の復唱障害に関するメカニズム論

Wernicke(1874)らは、伝導失語感覚性言語中枢と運動性言語中枢を結ぶ連合線維の切断による感覚刺激の運動パターンヘの伝導の障害によつて起こると考えました。
この考え方は、復唱障害の重要性を指摘したLichtheimを経て、Geschwind、Kinsbourneらに受け継がれ、最近の病巣研究の結果からも重要視されています。
その一方、Liepmannのように、伝導失語が発話の準備段階の障害、遠心性の過程の障害である可能性あげるものも少なくありません。
しかし、この場合でも、発語失行において想定される構音のプログラムよりも前の段階に障害を求めていて、感覚性言語中枢と運動性言語中枢の間の伝導ないしは中間的処理段階の障害とみることができるといえます。
また、ArdilaとRossellは、発話の音声学的分析から発語失行との類似性に言及しています。
実際、伝導失語の発話は発語失行的な音の誤りからウェルニッケ失語と類似の音韻性錯語を示す例まで様々とされています。
KerteszとPhippsによれば伝導失語は、より前方に病巣を持つあまり流暢でないタイプと、より後方に病巣をもつ流暢なタイプの2群に分けられるといいます。
WarringtonとShalliceは復唱障害を主症状とする失語症患者の短期記憶(short term memory;STM)について検討し、復唱障害を聴覚言語性STMの障害によるという説を提出しています。
STMとは、例えば4-7-1-42のような数字列を復唱する場合のように、ごく短時間保持しておくことをいいます。
これに対しては、聴覚言語性STMは保たれているという意見、順序に関する記憶の障害とする説、伝導失語の全体像は音韻の選択と配列の障害で説明されるという説などの批判をあびました。
Warringtonら自身、最初の症例について復唱障害を有するが音韻性錯語を伴わないことから、はっきり伝導失語とはいっておらず、後に伝導失語と聴覚言語性STMの障害と分けることを提案しました。
さらにMcCarthyとWarringtonは、数唱や単語のリストに対するSTMの障害と文の復唱に対するSTMの障害は異なるものである可能性を示しました。
しかし、定型的伝導失語例で聴覚言語性STMが障害されていること、また病巣が上側頭回におよんだ例で聴覚言語性STMが視覚言語性STMよりも有意な低下を示すことが示されていて、STMの障害が失語を構成する一症状である可能性も考えられています。