リハビリテーションの進行に伴う患者心理の変化
患者の心理は疾病経過に従って変化します。一般に身体機能の回復は時間の単調な関数として記述できますが、心理面における変化はやや複雑です。以下では脳卒中を例にモデル的に示します。
発症時(急性期)には患者は心理的ショックの状態にあります。自分の存在に対する圧倒的脅威の前に、混乱し、理解も出来ず、不安や無力感を抱いています。これが第Ⅰ相です。
急性期を脱すると、自分の身に起こった変化(機能障害)を防衛的に処理しようとします。現実を否認したり、八つ当たりをしたり、退行するなど、現実から逃避しようとする傾向が増します。防衛機制の理論では、これらの現象は自我を不安から守るため無意識的に生じるので、咎めたり強く否定すべきではありません。これが第Ⅱ相です。ただし患者によっては、心理的に自分を守ることができず、直接ストレスにさらされてうつ状態に陥る場合もあります。
機能訓練が軌道に乗り、一旦失われたかにみえた身体機能が徐々に回復しだすと、患者は希望を持ち、防衛機制は衰弱して心理的状態は安定へ向かいます。
訓練への参加も意欲的になりますが、このとき患者は完全な回復あるいは満足できる水準まで回復することを期待するようになります。ところが多くの場合、その前に機能回復はプラトーに達します。
これ以上の機能回復が得られないことを告げられると、患者は驚き、失望し、情緒は再び不安定になります。これが第Ⅲ相です。
このような事態は当然予想されることなので、早い時期からの準備が必要です。全体の機能回復とともに、心理的適応を支援する働きが必要になります。
障害受容のため価値意識の変化を伴う心理的再体制化がなされるのが第Ⅳ相です。しかし、ひと口に障害需要といっても、それは優しいことではなく、患者にとっておそらく一生の課題です。したがって第4相は目標といえます。患者に携わるメンバーは、同様の条件で努力している事例などをモデルで示し、患者や家族を勇気づけるような対応が必要になります。
*参考 リハビリテーションマニュアル(日本医師会)