廃用症候群 (Disuse syndrome)





廃用症候群 (Disuse syndrome)

 病気の時、人は「安静にする」という行動をとることが多いものです。もちろん安静を必要とする状況は多々ありますが、その程度により様々な障害を起こすのも事実です。その一つが「廃用症候群」です。

 廃用症候群の出現は老年期において顕著、かつ重度ですが、過度の安静は若年者においても同様の作用を及ぼします。したがって急性期からの安静の指示に対しては、廃用症候群の予防も考慮する必要があります。廃用症候群としての機能低下は、局所性のみではなく、全身にも出現し、それらは能力低下を伴い日時用生活における行動学的障害につながります。
全ての筋骨格系は不使用、あるいは絶対安静により負の影響を受けます。変化の多くは可逆性ですが、全身性には体力の低下を伴い、その回復には時間と注意深い努力を必要とします。

①骨格筋の障害
 骨格筋はある程度以上の強度での運動に使用されないでいると筋肉の体積は減少します。微細な変化としては、筋繊維を構成するサルコメアの増減があります。短縮位で長期間保持されると、サルコメアは減少し、伸展位で固定されるとサルコメアは増加します。それにより筋の短縮・伸長が起こります。

②関節の障害
 筋と関節包の拘縮は運動の制限に生じるが、関節可動域制限は繊維性脂肪組織の増殖の結果でもあります。関節周囲組織としては腱、関節包、筋腱膜及びそれに結合する靱帯が含まれ、それぞれに不動の影響が生じます。これらの変化は細胞レベルで生じるもの、基質とコラーゲンに生じるもの、組織レベルでの反応に分けられます。臨床的にみられる変化は動物実験のような完全不動によってのみ生じるわけではなく、関節が関節全可動域にわたって関節周囲組織と筋肉を最大限伸展するよう動かさなければ生じます。

③骨の障害
 不使用の影響は骨にも表れます。骨は適度な刺激により、骨再生と骨吸収を均衡させ、骨組織を維持しています。しかし身体の不使用があると通常の刺激を著しく減少させ、骨吸収率は骨産生率を上回り、骨萎縮を起こします。この骨吸収優位状態が骨粗鬆症です。

④体力の低下
 不動状態が続くことにより、筋肉量の低下がみられます。中枢的に神経活動が減少し、使用される筋肉量が少なくなるからです。また交感神経性の活動も減少し、心拍数の低下に作用します。さらに運動や不活動により、中枢性の運動プログラムあるいは記憶痕跡の不活性化などの影響で、運動の協調性も低下します。協調性が低下することにより、単純な動作でも予想外の筋活動が生じるようになり、エネルギーの損失へ働きます。

 廃用症候群は筋肉の柔軟性と可動域を低下させ、運動機能を障害させます。これらの変化が矯正されないまま経過すると、運動障害はさらに不動を引き起こすことになり、際限なき悪循環に陥ることになります。病状の変化と並行し、廃用症候群へのアプローチも最大限考慮する必要があります。