精神活動性低下とリハビリテーション
精神活動性低下は、全般的に精神機能の低下した状態を指します。
精神活動鈍化とも言います。
自発性低下及び意欲減退が前景にあり、一般的にうつ傾向で記憶障害を呈し、さらに認知症状態を伴うことがあります。
多様な症状を総括的に示す概念とも言えます。
自発性低下のみを示す場合やうつ状態を背景にした意欲減退のみを指すこともあり、また脳血管障害などにみるように知能障害と合併して自発性低下を示すこともあります。
いずれにしても精神活動性低下は、種々の神経性心疾患に広くみられるものではありますが、高齢になるにつれて頻度は高くなります。
これはその原因となる疾患が加齢とともに有病率が高くなるためだと思われます。
自発性低下は、意欲の減退によって起こるもので、精神活動低下にあたって、もっとも頻度の高いものといえます。
種々の状態像や疾患があります。
その分類は5つに分けることができます。
第1は、欲動の低下によって起こるものです。主要疾患として統合失調症があります。
情意鈍麻、意欲喪失状態を示すことがあり、高度の場合には一切の欲求や自発行動が欠如した無為の状態になります。
全く自発行動がゼロになったものを精神医学では昏迷と呼んでいます。
なお心因性精神疾患の中で、たとえばヒステリーでは著しい精神活動低下として昏迷状態を示すことが知られています。
第2は、うつ状態です。典型的なうつ病の場合には、うつ感情と気力の低下、欲動の減少(食欲や性欲の低下)があり、自発性は低下します。
第3は脳器質性疾患、ことに認知症状態で起こります。前頭葉器質性病変によって意欲の減退や自発性低下がある場合には、発動性欠乏と呼ぶことがあります。
臨床的に最も多いのは脳血管性障害の慢性期にみられるもので、リハビリテーションの重要な課題となります。
第4は意識障害です。軽度の意識障害時には、一見して認知症と似た認知障害を起こし、自発性低下を示すことがあります。
逆に多動、精神興奮を伴う事もあります。原因疾患として脳器質性疾患や薬物(殊に向精神薬)の過剰投与があります。
第5は、身体衰弱や寝たきり状態にみられます。これは各種慢性身体疾患(外傷や骨折を含む)では長期に持続する身体機能の低下に連動して起こりやすくなります。早期に対応してゆくことが患者のQOLを維持するうえで重要になります。
リハビリテーション概念の本質は、回復、つまり、できるだけ元の状態に復することです。
精神医学的領域におけるリハビリテーションの専門家たちは、リハビリテーションの概念を広くとらえ、統合失調症をはじめとする精神障碍者にみられる精神活動性の低下などを対象として生活療法を主体とした対応を行っています。
この場合に重要なことは、リハビリテーション治療者のチーム形成です。
治療者がよくその目的を理解し、患者の状態像を把握して、実施していくことが肝要です。
精神活動性低下に対するリハビリテーションは、機能回復や社会復帰が主となる場合があるにしても、現在の日常生活活動能力を出来るだけ長期間保持し、低下させないことがまず目標となります。
そのためには、まず原因となっている状態像や原因疾患を適正に診断して、これに対する治療を行うことが第1です。
次に残存している能力を評価したうえで個人の持っている潜在能力を引き出し、興味や意欲を増進させるようなリハビリテーション・プログラムを組む必要があります。
集団療法的なアプローチは、この中でも有効な方法の一つといえるでしょう。
*参考 リハビリテーションマニュアル(日本医師会)