スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

1月, 2015の投稿を表示しています

姿勢保持の神経メカニズム

姿勢保持の神経メカニズム 感覚器官(視覚・内耳平衡覚・深部知覚)から入力された情報は、中枢(主に脳幹・小脳)で処理され、運動器官(骨格筋など)を適切に動かすことで姿勢が調節・保持されます。 運動器官に問題がない場合は、平衡障害は感覚器官または中枢の異常が疑われます。 開眼時は視覚・内耳平衡覚・深部知覚の三つの感覚入力を利用できるため安定性を損ないにくいのですが、閉眼下では視覚入力がなくなるため内耳平衡覚・深部知覚のどちらかに異常があれば平衡障害を生じやすくなります。 中枢障害では開眼・閉眼での差はあまり目立たないと言われています。 姿勢保持や運動時の体の協調には錐体外路性運動系が重要といわれています。 小脳をはじめ、線条体、淡蒼球、中脳の赤核・黒質などが違いにネットワークを形成し、一部は脊髄へと投射せれています。 前庭脊髄路や網様体脊髄路は錐体外路性運動系の一部で、前庭神経核に入った内耳からの平衡覚情報が脊髄前索を介して脊髄の運動ニューロンへ投射しています。 これらは頸部を含む四肢近位部と体幹の筋を支配することで前庭脊髄反射を通して姿勢の保持に関与し ています。

歩行の神経メ力ニズム

歩行の神経メ力ニズム 歩行時の動的平衡の維持には、四肢・体幹の協調や外乱への対処など、より複雑な処理が必要となります。 しかし、そのすべてが大脳などの高次脳機能に依存しているわけではなく、歩行に必要な基本的な運動出力は脳幹や脊髄などの下位の階層で生成されています。 例として、ネコの脊髄を上位中枢から切り離しても、歩行に似た周期的な筋活動が後肢に発現することが知られています。 また、ネコにおいては中脳や小脳、視床下部に歩行誘発野が同定されていて、電気刺激やトレッドミル駆動にて歩行が誘発されます。 これは脊髄に中枢パターン生成器(central pattern generator:CPG)が存在し、上位中枢からの神経指令がなくても周期的な運動パターンを生成できるためと考えられています。 CPGの構成については諸説ありますが、屈筋群と伸筋群を支配するニューロン群が介在ニューロン群で接続されたhalf center仮説が知られています。 介在ニューロン群は相互に抑制性結合を持ち、左右のCPG間でも連携があると考えられており、網様体脊髄路などの上位中枢からの入力は、歩行リズムを調節する役割があるものと考えられています。 ヒトではCPGの存在は直接証明されていませんが、脊髄損傷患者に脊髄電気刺激を行った際に屈筋・伸筋の交代性筋活動が観察されたことなどから存在が強く示唆されています。 上位中枢の関与としては、中脳・橋境界部の脚部での出血後に立ち上がったり足踏みできなくなった症例が報告されていることから、ヒトでもこれらの部位に歩行を調節する上位中枢があるものと推測されています。 大脳皮質などの高次中枢は、視覚情報を介して障害物の回避など意識的に運動を調節する場合などに関与するものと考えられています。

スクワット(squat) 理学療法

スクワット(squat) 理学療法 スクワット(squat)とは、「座る」という意味です。 スクワットで鍛えるのは下肢筋力で、歩くときに使う筋肉です。 大腿四頭筋を中心に、裏側のハムストリングス、大殿筋を鍛え、ヒップアップや下半身の無駄なぜい肉を落として、太ももを引き締める効果があります。 また、立つ、歩く、走るときの筋肉を鍛え、歩行や立ち座りを楽にする効果があります。 スクワットの方法 ①両足を肩幅に開き、足先を正面に向け平行にして立ち、両手を腰にあて背筋を伸ばします。 ②ゆっくり膝を曲げ、4秒かけてしゃがみ、4秒かけて元の体勢にもどります。 スクワットのポイント 胸を張るようにして背筋を伸ばすようにします。 また、しゃがんだときに膝頭が足先より前に出ないようにします。 大腿四頭筋やハムストリングスなど抗重力筋を意識するようにします。 体力の衰えてきた患者は前に椅子を置いて、背もたれを持って行うと良いです。 スクワットの回数 10回を1セットに、2~3セット行います。 スクワットの注意点 しゃがんだときに膝頭が前に出ると、膝に体重がかかって膝を痛めてしまうため、踵側に体重をかけつま先立ちにならないようにします。 膝を曲げたときに膝頭が外に開く(がに股)と膝に無理な負担がかかるため、内股気味にして、つま先と膝頭の方向を一致させるようにすると良いです。

坐骨神経痛時のハムストリングスへの押圧

坐骨神経痛時のハムストリングスへの押圧 大腿後面の筋肉(ハムストリングス)は、膝の屈曲と股関節を伸展させる働きがあります。 坐骨神経痛で足が動かなくなるのは、ハムストリングスが関係しています。 太ももの裏側を押圧すると棒状の経筋結節を触診することができます。 この硬結を両手の四指でほぐすと、足が軽く動きやすくなります。

坐骨神経痛時の梨状筋への押圧

坐骨神経痛時の梨状筋への押圧 梨状筋部の棒状の硬結が、下肢の痛みやしびれを起こす原因となります。 坐骨神経痛時に梨状筋部を母指で探ると、こりこりした筋肉の結節を認められます。 それを丁寧に解していくと、次第に柔らかくなってくるのが分かります。 まず、患部を上に側臥位になってもらい、手で梨状筋部を押圧します。 母指や四指で解しますが、手が疲れる場合は、指圧棒やゴルフボールなどを用いると良いでしょう。 また、梨状筋部を手で押さえながら、膝を高く上げて歩くと、刺激を楽に与えることができます。 指圧やマッサージを行うことで、筋肉の硬結がほぐれ血液循環がよくなり、硬くなった筋肉で圧迫していた神経が解除されて痛みやしびれが改善されることが期待できます。

坐骨神経痛の経筋反応

坐骨神経痛の経筋反応 坐骨神経痛では、足太陽経筋と足少陽経筋の2経に反応が出る場合が多いです。 触診でも、患側の梨状筋部と右大腿の後側に硬結がみられます。 経筋反応が足少陽経筋だけにある場合は、梨状筋部の硬結を手技でほぐすと、比較的短期に症状が緩和するといわれています。 治療は、足少陽経筋の経筋反応から右梨状筋部の硬結を手技でほぐすことをメインに行っていくと良いそうです。 それに加え、足太陽経筋の大腿後面をそれぞれ押圧し経筋をほぐすセルフでの手技と、坐骨神経痛の運動療法を行ってもらうと良いです。 ただし、手技療法・運動療法を行って痛みが増悪するときは中止するようにします。

坐骨神経痛の症状と評価

坐骨神経痛の症状と評価 坐骨神経痛は、中高年の男性に比較的よく見られる疾患です。 寒さや外傷が引き金となって、骨盤やその付近の関節で炎症や筋緊張が起こりますが、そのなかでも坐骨神経が炎症を起こして圧迫されたときに、坐骨神経痛が起こります。 坐骨神経痛の多くは、殿部周辺の経筋反応としてとらえることができます。 特に梨状筋や大殿筋が関係しており、片側に筋肉の緊張を認めます。 患側の坐骨神経が梨状筋部を通るとき、筋肉を硬結させ、神経の走行に沿って大腿後面や下腿に痛みやしびれがおこります。 その結果、足に力が人らなくなって歩行が困難になったり、下肢の筋肉の太さに左右差が出るなどの症状が現れます。 経筋反応のほか、環跳の圧痛(坐骨結節部を強く押圧すると痛む)の有無や、梨状筋や大殿筋の硬結部分の触診や、SLR(Straight Leg Raising)テストで確認することができます。 SLRテストは、背臥位になってもらい、患側の足を30~40度挙げて、痛みが出るかどうかを診るテストです。 坐骨神経に異常が起こると、経筋に沿って棒状や帯状に硬くなったりする筋肉の硬結が現れます。 手技や運動療法によってこの経筋反応をなくすと、坐骨神経痛は改善されていきます。

頚部にみられる三角

頚部にみられる三角 ①顎下三角 下顎骨下縁と顎二腹筋の前腹、後腹によって囲まれた領域を、顎下三角という。 この領域の表層には大唾液腺の一つである顎下腺があり、深層から浅層に向かって顔面動・静脈が走行して、下顎骨の表面を通って顔面領域に達する。 ②頚動脈三角 胸鎖乳突筋前縁と肩甲舌骨筋の前腹および顎二腹筋の後腹によって囲まれた領域を、頚動脈三角という。 この領域の表層から深層に向かって、顔面静脈と頚動脈鞘の中に内頚静脈、総頚動脈、迷走神経が走行している。 最も深い部位には交感神経幹が観察できる。 ③後頚三角(外側頚三角) 胸鎖乳突筋後縁と僧帽筋前縁および鎖骨上縁によって囲まれた領域を、後頚三角という。 この領域は、副神経、腕神経叢、鎖骨下動・静脈が通っている。 中心静脈栄養が行われる際に用いられる静脈はこの領域を走行する鎖骨下静脈である。 リハビリナース vol.07 no.01 2014参照

頚部浅層筋

頚部浅層筋 頚部の筋は、筋の性質と位置から、皮筋(広頚筋)、前頚筋群(舌骨上筋群・舌骨下筋群)、側頚筋群(胸鎖乳突筋)、椎前筋群(後頚筋)、斜角筋群(前斜角筋等)等に分けられる。 ①頚部の皮筋 広頚筋は人体中最も発達している皮筋で、下顎骨下縁から起こり、頚部や胸部の真皮に停止する幅広い筋である。 口角を外側に引っ張る動作をすることで広頚筋が収縮して、頚・胸部の皮膚が持ち上がります。この筋に分布する神経は顔面神経と頚神経叢の枝である。 ②前頚筋群 前頚筋群は舌骨を挟んで、上方の舌骨上筋群と、下方の舌骨下筋群に細分される。 舌骨上筋群は主に舌骨と下顎骨との間に位置する筋で、下顎骨を引き下げ、嚥下運動に関与する。 代表的な筋には、顎二腹筋(前腹・後腹)、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、茎突舌骨筋などがある。 分布する神経は脳神経である。 舌骨下筋群は舌骨と胸骨との間に位置する筋で、舌骨が固定されている場合、胸郭を引き上げる作用がある。 この筋に分布する神経は、頚神経叢がつくる頚神経ワナからの枝である。 ③側頚筋群 胸鎖乳突筋は頚部の代表的な長い筋で、胸骨と鎖骨の胸骨端から起こり、筋束はそれぞれ側頭骨の乳様突起と後頭骨側面に停止している。 顔を横に向けると頚部に斜めに現れる筋である。 分布する神経は、第11脳神経である副神経と、頚部領域から分布する頚神経(脊髄神経)の2種類である。 ④椎前筋群(後頚筋) 椎前筋群(後頚筋)には頭長筋、頚長筋等があり、頚椎の前面に位置していて、頚の前屈や側屈に作用する。 すべての筋に分布する神経は、頚神経叢から分岐する神経枝である。 ⑤斜角筋群 正中側から外側に縦に走行する筋群で、前斜角筋と中斜角筋、後斜角筋がある。 それぞれの筋の走行は頚椎の横突起から起こり、鎖骨の下を通って第1肋骨(前斜角筋、中斜角筋)、第2肋骨(後斜角筋)に停止している。 前斜角筋と中斜角筋、第1肋骨でつくられる三角の領域を斜角筋隙といい、この部位を正中から外側に向かって鎖骨下動脈と腕神経叢が通り抜けている。

若年ミオクロニーてんかん(JME) 症状

若年ミオクロニーてんかん(JME)の症状 若年ミオクロニーてんかん(JME)とは 若年ミオクロニーてんかん(JME)は、1957年JanzとChristianがimpulsivpetit malとして報告し、国際抗てんかん連盟(ILAE)の国際分類においては、1989年の分類からは特発性全般てんかんのなかのひとつの症候群単位として記載されています。 JMEは有病率もてんかんの8~10%と比較的高く治療により発作の抑制が期待できるため、てんかん診療のなかでも重要な症候群です。 一方で、正しく診断されないために発作の抑制には至らない場合もあることから、注意が必要です。 JMEの症状の症状 JMEの症状は思春期に生じ、両側性の単発もしくは繰り返す非律動性で不規則な上肢優位のミオクロニー発作が特徴です。 びくつきにより突然転倒する患者もいます。 意識の障害は明らかではありません。 遺伝する場合もありますが性差はありません。 しばしば全般強直間代発作(generalized tonic clonic seizure;GTCS)を生じ、散発的な欠神発作をともなうこともあります。 発作は通常覚醒直後に生じ、睡眠不足で誘発されやすいです。 脳波は発作間欠時も発作時も周波数の高い全般性のしばしば不規則となる棘徐波や多棘徐波を認めます。 脳波上の棘波とびくつきとのあいだにははっきりとした時間的相関がないこともあります。患者は光感受性を示すことが多いです。 適切な薬剤に対する反応は良いと言われています。

無庖疹性帯状庖疹(zoster sine herpete)

無庖疹性帯状庖疹(zoster sine herpete) Hunt症候群の亜型として、VZV再活性化による顔面神経麻痺でありながら庖疹を欠き、臨床的にはBell麻痺と鑑別困難である無庖疹性帯状庖疹(zoster sine herpete)が存在します。 Zoster sine herpeteの診断にはペア血清を用いたウイルス抗体価測定が必須で、さらに唾液を用いたVZVDNAの検出も有用です。 日本で施行された多施設共同研究の結果、Bell麻痺症例においてEIA法による抗VZV IgG抗体の有意変動は6~9%、IgM抗体陽性化は5%にみられたとの報告があります。 PCR法による唾液中VZV DNA陽性率は3~11%で、PCRの方法、検体採取の回数すなわち1回のみ調べるか、再診の度毎に調べるか等で異なります。 唾液中VZV DNA検出と血清抗体価検査を組み合わせて診断すると、zoster sine herpeteは臨床的Bell麻痺の8~19%を占める結果となっているとのことです。 zoster sine herpeteはHunt症候群と同様に完全麻痺症例が多く、また麻痺の治癒率も不良であるため、臨床的にもBell麻痺症例と区別する必要があります。

Bell麻痺とHSV-1再活性化

Bell麻痺とHSV-1再活性化 Bell麻痺の病因については、ウイルス説、虚血説など様々なものが提唱されてきました。 なかでも単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type l:HSV-1)再活性化により顔面神経管内で炎症・浮腫が生じ麻痺に至る仮説は、1972年McCormickが提唱しましたが、今日までに主病因であることが明らかにされてきました。 顔面神経減荷術を施行したBell麻痺患者の神経内液・後耳介筋、発症早期に採取したBell麻痺患者の唾液からHSV-l DNAが検出されることが報告されています。 一方、HSV-1は健常者においても無症候性に再活性化するため、HSV-1の検出、すなわち麻痺の原因であると断定することはできません。 HSV再活性化の場合、抗体価の有意の変動を認めることは稀で、HSV-1再活性化による麻痺を診断するのは困難であるのが現状です。 つまり、Bell麻痺の何割がHSV-1で発症しているかを直接的に診断することはできません。 Bell麻痺の約6割がHSV-1により発症すると推定されています。

末梢性顔面神経麻痺の病的共同運動の治療

末梢性顔面神経麻痺の病的共同運動の治療 病的共同運動は、急性期の不適切な治療によっても増悪するため、その予防のためには麻痺発症後急性期の治療に注意が必要です。 病的共同運動の予防は、まず顔面表情筋の強力で粗大な収縮をさけることである。 麻痺した顔面表情筋を動かそうと練習(百面相運動など)することは避け、加えて顔面表情筋のこわばりに対しては筋線維の方向に沿った筋伸張マッサージを勧めます。 低周波神経筋電気刺激治療は神経再生時の軸索迷入を促進し、かつ成立した病的共同運動の筋力も増強してしまうため、有害とされており、決して行わないようにします。 治療には①A型ボツリヌス毒素の皮下注射(ボツリヌス毒素療法)、②アルコールによる神経ブロック、③選択的神経切断術、④選択的筋切除術などがあります。 ①ボツリヌス毒素は、神経筋接合部での伝達をブロックすることにより運動麻痺をおこす作用があり、当初は片側顔面痙攣や眼瞼痙攣に使われ始め、現在は痙性斜頸や上下肢痙縮などにも使用されています。 ボツリヌス毒素療法は、この作用を応用して不随意運動を抑えるために、病的共同運動をおこしている筋そのものにボツリヌス毒素を注入する治療であり、病的共同運動に対しても多く行われています。 しかし、この治療は対症療法であり、時間の経過とともにボツリヌス毒素が吸収されるために効果の持続は3~4カ月で、効果消失後は症状が再発するために反復投与が必要になります。 近年、ボツリヌス毒素投与後にミラーバイオフィードバック療法を行い、病的共同運動そのものを減弱させる治療も報告されています。 ②神経ブロックは、病的共同運動を来している筋を支配する神経に、アルコールを注入して神経障害をおこし、筋の運動を抑える治療です。 注入の目標が神経のため熟練を要することもあり、ボツリヌス毒素療法ほどは一般的でありません。 ③選択的神経切断術は、病的共同運動を来す筋の支配神経を電気刺激などで同定したうえで、できるだけ末梢で切除します。 ある程度の効果は期待できますが、顔面神経の末梢は分枝間での吻合が多いため、一般的に再発しやすいです。 ④選択的筋切除術は、眼輪筋を温存しつつ、眼輪筋につながる大・小頰骨筋、上唇挙筋、前頭筋、皺眉筋を部分的に切除し、眼輪筋から切離する方法です。 ...

顔面神経麻痺後の病的共同運動の機序と注意点

顔面神経麻痺後の病的共同運動の機序と注意点 神経損傷程度の分類法のうちSeddonの分類では、神経障害は①神経無動作(neurapraxia)、②軸索断裂(axonotmesis)、③神経断裂(neurotmesis)に分けられます。 神経断裂の場合、神経再生の際に本来再生すべきでない部位に軸索が迷入する神経過誤支配を生じることがあります。 過誤支配した神経によって病的共同運動を発症します。 麻痺後3~4カ月頃より病的共同運動の症状が出現すると言われています。 神経無動作、軸索断裂の場合は理論的には過誤支配は生じないため、病的共同運動は発症しません。 しかし、実際の顔面神経麻痺症例では、これら3種類の神経障害がさまざまな割合で混在すると考えられるため、そのうち神経断裂の割合により病的共同運動の程度も変わってきます。 病的共同運動は神経断裂の割合だけでなく、不適切な治療でも増悪する可能性があるため注意が必要です。 麻痺急性期に、リハビリと称した顔面の粗大な運動の反復や、低周波神経筋電気刺激などを行うと、軸索の迷入および神経の過誤支配が促進され、病的共同運動の増悪につながってしまいます。 「顔面神経麻痺診療の手引」では、麻痺急性期における顔面表情運動の練習は避けるべきとされ、低周波神経筋電気刺激治療は有害とされています。

末梢性顔面神経麻痺の病的共同運動

末梢性顔面神経麻痺の病的共同運動 病的共同運動は、神経再生時の過誤支配によって生じると考えられ、後遺症の中でも頻度が高いです。顔面のある部位の随意運動や反射的運動時に、他の部位の不随意運動も伴うのが症状です。 具体的には、瞬目時に患側の頬部から口角がピクピク痙攣したように動いたり、強閉眼時には口角挙上、頬部の隆起、鼻唇溝が顕著になります。 また、会話時や食事時には患側の瞼裂狭小化や閉眼状態となる場合もあります。 極軽度の病的共同運動であれば気にならないこともありますが、中程度以上になると不快感の強いことが多いです。

表情筋の特異性

表情筋の特異性 表情筋には体性感覚線維が介在する筋紡錘が欠落していて、四肢における深部腱反射は表情筋にはありません。 眼輪筋反射や口輪筋反射等の顔面筋反射は、角膜反射と同様に三叉一顔面神経脳幹反射であって筋紡錘が介在した腱反射ではありません。 顔面筋反射は驚愕反射で、生体防御反応です。 視覚的危険が迫っても角膜に異物が触れても突然の大きな音に対しても、あるいは転倒するなど平衡感覚からの入力によっても眼球を守るために眼輪筋による閉瞼が起こります。 表情筋は、基本的には目、鼻、口、耳を閉鎖させるために発達した皮筋です。 ヒトでは陸生動物になり、鼻、耳の反射的閉鎖はなくなりました。 口の閉鎖は吸畷反射として乳児期に残っています。 四肢筋では関節を挟んで収縮と伸張が一対となって起こります。 表情筋は皮筋であり、関節の介在はなく、収縮優位で、意識して牽引や開口をしなければ伸張することは難しくなります。 顔面神経麻痺になると、速やかに生体防御反応を回復させる観点から顔面神経核興奮性が亢進し、表情筋は収縮しやすい状態になっていて、スパスムやミオキミアの不随意運動として観察されるようになります。 生体防御の観点からは好ましい反応でも、顔の審美性の観点からは筋の短縮による顔面拘縮は予防の対象となります。

ベル麻痺・ハント症候群の予後予測

ベル麻痺・ハント症候群の予後予測 Bell麻痺やHunt症候群などの末梢性顔面神経麻痺症例に対し、electroneuroglaphy(ENoG)を用いた予後診断法が広く行われるようになりました。 顔面神経麻痺発症後7~14日にENoGを行うことにより神経障害の程度を把握し予後を推定することが可能となります。 ENoGが40%以上で神経障害が軽度な場合、後遺症なく完治する可能性が高いといわれています。 そのため、積極的なリハビリテーションは必要ないといわれています。 ENoGが10~40%の中等度の神経障害の場合、表情筋の運動麻痺の回復は期待できますが、病的共同運動の出現する可能性が高いです。 この場合には、病的共同運動を予防することを主体としたリハビリテーションが必要となります。 ENoGが10%未満の高度の神経障害や完全脱神経の場合には、病的共同運動が高頻度、高度に出現し、かつ表情筋の筋力回復も不十分に終わる症例が少なくありません。 このような場合では、病的共同運動を予防すると同時に表情筋の筋力回復を促進するためのリハビリテーションが必要となります。

顔面神経の特異性

顔面神経の特異性 顔面神経には四肢神経にある神経束構造が欠落していて、1本1本の神経線維はたがいに密接しています。 このことは1本の神経線維損傷に注目したセドン分類をあてはめることができます。 脱髄によるニューラプラキシーや神経内膜が温存されている軸索断裂の神経線維では迷入再生は起こりません。 しかし、神経内膜が損傷されている神経断裂では迷入再生が生じます。 神経断裂線維は(40-ENoG)%と数量的に推定されます。 病的共同運動の原因となる迷入再生は、すでに発症時の膝神経節における神経変性とともにはじまっています。軸索断裂線維は3カ月ほどで表情筋に到達します。 このために軸索変性軽症例では、3カ月で表情筋がほぼ正常に改善されます。 神経断裂線維はすこし遅れて4カ月で、過誤支配が病的共同運動として顕在化します。 神経断裂線維の多少によって、病的共同運動が時間差をもって出現します。 そのため、ほぼ正常に改善した症例でも、4~5カ月以降に病的共同運動が顕在化することもあります。 神経の再生突起は、筋の随意運動や収縮した方向に進んでいくと考れています。 神経断裂がある症例では随意運動や低周波電気刺激を積極的に行うことによって神経再生は良好ですが、同時に迷入再生が生じて病的共同運動の原因になってしまいます。

末梢性顔面神経麻痺の予後

末梢性顔面神経麻痺の予後 発症2~3週間以内に柳原40点法で20/40点以上の症例、あるいは軸索変性の重症度をあらわす発症2週間後の患側と健側の表情筋複合筋活動電位の振幅比のENoG(エレクトロニューログラフィ)が40%以上の症例は完全回復型で、機能異常は出現しません。 しかし、これ以外の症例では、4カ月後に表情筋の過誤支配による病的共同運動など機能異常が出現する可能性が高くなります。 とくに発症3カ月後でも10/40点以下、発症2週間後のENoG〈10%の症例は完全脱神経型で予後は不良となります。

アーカイブ

もっと見る