脱抑制とは、「状況に対する反応としての衝動や感情を抑えることが不能になった状態」のことを指します。患者は、外的な刺激に対して衝動的に反応したり、内的な欲求を制御することができず本能のおもむくままに行動したりします。
脱抑制行動は様々な生活場面で出現し、その内容はマナーや礼儀正しさの欠如といった軽微なものから、反社会的行動と呼ばれる違法行動まで幅広いです。
「人前でも構わずおならをする」のようなエチケットの欠如や、「葬式の最中に笑いだす」「診察中に鼻歌を歌う」「行列に割り込む」などのマナー違反が含まれます。反社会的行動では、「万引き」「道端での放尿」「交通ルールの無視」などの比較的軽微な違法行為がみられることが多いとされています。
診察場面では、「あなた太っているわね」「白髪が多いわね」など、主治医に向かって思いつくままのことを口にしたり、診察室から勝手に出て行く立ち去り行動などがみられます。
ケア場面では、「卑猥なことを話す」「異性の身体を触る」などの性的逸脱行動が問題となりやすいです。
また、問題行動をたしなめられても悪びれた様子はなく、あっけらかんとしていることが多いです。
脱抑制行動は前頭葉眼窩面の障害で出現するといわれていますが、最近のMRIを用いた研究では右側の側坐核、上側頭皮質、内側側頭葉構造物の萎縮との関連性も指摘されているます。
薬物治療は、抗精神病薬の鎮静作用を利用し行動の抑制をはかることが主となります。対応方法は、脱抑制行動を誘発するような刺激をできるだけ取り除くことが基本となります。性的逸脱行動に対しては、性衝動をため込まないように日頃からのスキンシップを心がけ、行為に及んだ場合は、他の作業に誘導するなどして気をそらせるようにします。