失文法 agrammatism
失文法(agrammatism)は、失語症状の一つです。
文法的に正しい文を産生できない状態のことをいいます。
症状は発話と書字に現れ、文を構造化すること(統語構造の生成)および格助詞、前置詞、助動詞といった文法的形態素を適切に使用すること(文法的形態素の処理)が障害されます。
文法的形態素を産生することが極端に困難な場合は、電文体発話(telegraphic speech)となります。
日本語の失文法の特徴としては、以下のものがあげられます。
失文法を呈するのは、Broca失語重度失語症から回復してきたBroca失語交叉性失語などです。
失文法の責任病巣としては、20世紀初頭から左下前頭回が注目されてきましたが顕著な失文法症状は、病巣が左下・中前頭回から下頭頂小葉に及ぶ者や、左下前頭回から中前頭回に渡る病巣をもつ者が多いです。Broca野のみの病変で典型的なBroca失語は生じないことが知られていますが、失文法についてもBroca野のみの病変によって重度の失文法が発現することはほとんどありません。
Kleistが失語症の文法障害を2分別して以来、失文法に対立するものとして錯文法(paragrammatism)が記載されてきました。
Kleistは、錯文法は感覚失語に生じ、文法に写った単語系列を形成するが表現形式の選択を誤り、責任病巣は左上側頭回であると述べています。
日本語の錯文法の特徴として助詞、助動詞、接続語の誤用をあげられます。
しかしながら、その後の研究において失文法でも文法的形態素の誤用が生じることが示され現在では文法的形態素(日本語では助詞など)を脱落するか、誤用するかといった点から失文法と錯文法を区別することには意義がないと考えられています。
錯文法の特徴は、文法的形態素は誤るが、豊富な文型が発話されることにあり、このことから錯文法では統語構造の生成は比較的に保たれるが文法的形態素の処理が障害されるといえます。
錯文法はWernicke失語の回復期に生じるといわれていますが、Wernicke失語で典型的な錯文法症状を呈する症例はきわめて少ないそうです。