前頭葉機能障害 前頭前野
Stussは、前頭前野を、背外側前頭前野、腹内側前頭前野、上内側前頭前野、前頭極の4つの領域に分割し、それぞれの領域と関連する領域特異的な次の4つの認知機能を提唱しました。
1)遂行的認知機能
低次の自動的な認知機能の制御と方向づけを担います(プランニング、認知的構えの転換、抑制など)。「遂行機能」の一般的な意味合いにもっとも近いと思われる概念で、この機能の障害はWCSTやTMT、流暢性検査などのいわゆる遂行機能検査において認知成績の低下を引き起こします。遂行的認知機能は、前頭前野のうち、背外側前頭前野と関係すると想定されています。
2)行動的―情動的自己調整機能
情動処理や報酬処理とかかわる認知機能で、個人の行動に対する情動的な結果の理解や行動の自己制御を担います。この機能に障害をもつ患者は、社会的に配慮の欠けた言動や攻撃行動などの問題行動を発現しやすいです。実験的な場面では、刺激とそれに対する情動的報酬の連合・逆転学習や、ギャンブリング課題の遂行に障害を示します。腹内側前頭前野と関与すると考えられています。
3)活性化調整機能
目的指向的行動の達成に向けて、あるいは、特定の状況内において行動を適切なレベルに活性化させる機能を担います。活性化調整機能は、個人が有するあらゆる認知機能を適切に働かせるために不可欠な機能と考えられています。これが障害されると、行動や心的過程の開始や維持が損なわれ、発動性障害が現れます。内側前頭前野のより上方の領域との関連が示唆されていますが、右内側前頭前野とのかかわりが強いともいわれています。
4)メタ認知過程
自己の内的状況の理解(自己意識、想起意識、認知と情動の統合)と、それを基盤として生じる他者認知(心の理論)や社会的認知を担います。この機能に障害をもつ患者は、社会的判断を適切におこなうことができず、さらには、共感性の欠如、無関心、自己投影を必要とするユーモアの無理解、といった症状を示します。前頭極(ブロードマンの10野)との関係が想定されています。