せん妄 delirium

せん妄 delirium

せん妄とは、意識障害、注意障害、認知機能の全般的障害、精神運動興奮または減退、睡眠覚醒サイクルの障害によって特徴づけられる、急性発症・一過性の器質精神症候群と定義されている。

脳の機能を広範に障害するような身体疾患や物質(乱用薬物、医薬品、毒物)がその原因となるが、その成因は「準備因子」「促進因子」「直接原因」に区別して考えるのが実際的である。

例えば、高齢であることや慢性の脳疾患が存在することは「準備因子」となり、心理社会的ストレス、睡眠障害、感覚遮断または過剰な感覚刺激、身体が動けない状態は「誘発因子」となり、脳機能を直接障害する身体疾患、薬物、アルコールなどが「直接原因」となる。

米国精神医学会の治療ガイドラインによれば、せん妄の有病率は、入院患者の10%30%、入院している高齢者の10%40%、入院している癌患者の25%、術後患者の51%、臨死期にある末期患者の約80%に及ぶと推計されている。

また、身体疾患のある患者におけるせん妄は、合併症併発率の増大と死亡率の増大に関連することが明らかにされている。

すなわち、せん妄は、肺炎や潰瘍性褥瘡の併発とそれによる入院の長期化に関連し、術後患者の術後合併症と術後回復期の長期化・入院の長期化・機能障害の長期化に関連する。


また、入院中にせん妄を発症した高齢患者が、その入院期間中に死亡する率は22%76%、入院中にせん妄を発症した患者が退院後6カ月以内に死亡する率は25%、せん妄の診断後3ヶ月以内の死亡率はうつ病などの気分障害の患者の14倍であるとされている。