超皮質性運動失語( transcortical motor aphasia: TCMA)
自発話は非流暢である。
発話を始めることが困難で努力を要する。
検者が話しかけない限り、自分から話し始めることは殆どない。
検者の質問に答える場合、発話開始に非常に時間がかかり、ごく短い文章しか話せない。
基本的に構音障害はないが、文章の内容は単純であって、失文法的である。
系列語(一週間の曜日、など)は一度話し始めるときわめて良好に話す。
言語認識は自発話よりは保たれているが、複雑な文章の認識は困難である。
復唱はよく保たれている。
「反響言語」はないが、「補完」が認められる場合もある。
喚語は不良である。
音読は不良であるが、読解はよい。
書字は研究者によって、自発話より保たれるとする説(ゴールドシュタインなど)と同程度に障害されるとする説(ケルテツ、山鳥、など)とがある。
片麻痺が認められるが失行は希である。
ゴールドシュタインは超皮質性運動失語を2型に分ける。
第一は他の失語類型への移行型として見られるもの、第二は発語に関する発動性の欠如によるものであって、前頭葉の損傷によるものである。
ルリアは超皮質性運動失語の特徴を言語→発話の変換過程の障害として捉え、「力動性失語」と呼んだ。
力動性失語はさらに第1型(叙述の障害、思考内容を具体的な語や文章にまとめあげることの障害)と第2型(文章の線形構造形成障害)に分けられる。
アレクサンダーによれば、力動性失語は失文法や構音障害を伴わない超皮質性失語であって、自発話は著しく減少するが質問には正しく答えられる。
通例の会話を持続的に継続する能力の喪失を特徴とする。
彼はこれが超皮質性運動失語の中核をなす症状であるとしている。
力動性失語については、
①文章構成課題において、文章構造が文脈から推定可能である場合には障害がないが複数の選択肢があり患者自身がいずれかを選択しなければならない課題では障害が認められる。
②二カ国語使用者ではある言語から他の言語に切り替えることが障害される。
③名詞のみの発話は保たれているが修飾語を伴う名詞の発話は障害される。
④指定された動詞を含む文章の生成が障害される、などの所見が明らかにされている。