疼痛による異常歩行(逃避歩行)
立脚期に痛みを生じる場合は、ゆっくりと体重支持をして体幹を健側に傾ける。また立脚時間は短縮する。遊脚期の痛みでは遊脚時間が延長しゆっくりとした遊脚期となる。T字杖など歩行補助具を用いることが多い。
①股関節痛
股関節周囲の靭帯を緩めて痛みを和らげるため、股関節が屈曲・外転・外旋位の肢位をとり、その結果膝関節が屈曲した異常歩行となる。患側立脚期は短縮し、健側の歩幅は短くなり、衝撃による痛みを軽減するためにゆっくり接地する。両側例では左右の歩幅が短くなり両脚支持
期の割合が増加するため、歩行速度が遅く、股関節伸展角度や骨盤回旋角度も減少する。
②膝関節痛
原因としては変形性膝関節疾患が最も多く、症状が進行すると立脚期に脛骨が内外側へ動揺する歩側動(thrust)が見られる。thrustには、脛骨が内反し膝が外側に動揺する外側thrust、逆に脛骨が外反する内側thrustがある。膝関節は関節周囲の緊張を軽減して痛みを和らげるため20~30°の屈曲位を保ち、立脚期の短縮、体幹を健側に傾けさらに足関節底屈位のつま先歩行となる。
→膝関節周囲筋の強化(特に膝伸展筋力)、靴の足底板による下肢アライメントの矯正など。
③足関節・足部痛
原因としては、足関節周囲の靭帯損傷などの外傷や捻挫、関節炎、魚の目、たこ、痛風性関節炎などがあり、立脚期に疼痛が生じる。患側下肢の立脚期は短縮し、一側の痛みでは非対称的な歩行となる。
④腰背部痛
両側の腰背部痛を伴う歩行では、体幹前屈位となって体幹の前後動揺を制限し、歩幅は狭く、重複歩距離は短縮して歩行速度は遅延する。片側の腰背部痛では、体幹前屈と患側または健側への側屈姿勢となる。
⑤間欠性跛行
一定時間歩行すると下肢の疼痛、しびれ、脱力などが生じ、徐々に増悪して歩行が不可能となるが、休息により症状が軽減して再び歩行可能となる。
a)神経性間欠性跛行
脊髄性間欠跛行:長く歩行すると下肢が重く、足を引きずるようになり、脱力のため歩行困難となる。
馬尾性間欠性跛行:歩行に伴って下肢の疼痛や感覚鈍麻などの異常感覚が下肢末端から腰部にかけて上行あるいは下方方向へ移動する、いわゆるsensory marchとなることがある。
b)動脈性間欠性跛行
主に慢性の末梢動脈閉塞性疾患が原因となり、循環障害のために運動時に必要なだけの血液を供給できない時に生じる下肢の虚血症状である。歩行を開始すると下肢のだるさ、こわばりが起こり、下腿三頭筋、前頚骨筋の筋肉痛により歩行困難となる。疼痛は左右差が存在し、休息する姿勢に無関係に症状が軽減する。典型例では、歩行を繰り返すと疼痛がより早く出現し、回復に要する時間が延長する。
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