仮性球麻痺 嚥下障害 病変部位による分類
- 皮質・皮質下型
- 内包型(大脳基底核病変型、中心型)
- 脳幹(橋、中脳)型
同じ仮性球麻痺といっても病変部位の違いで臨床症状に特徴がありますが、仮性球麻痺の中心症状は嚥下障害と構音障害であって、その随伴症状に違いがあると考えたほうが理解しやすいです。
随伴症状のなかでは顔面神経(顔面、口唇の動き)や三叉神経(顔面の知覚、咬筋)の症状を呈する患者が多いです。
リハビリテーションに際しては随伴症状が問題になるので、各型別に随伴症状の違いを説明します。まったく同じ症状の患者はいないので、脳のどの部位の障害による仮性球麻痺かをよく理解して患者をよく観察し、個々のケースに即してリハビリテーションを進めていく必要があります。
1.皮質・皮質下型
これらは感情を伴わない不随意運動として出現するといわれていますが、ほとんどこちらの問いかけや自らの発語に伴って誘発されるといった、感情失禁の要素が混在した強制泣き、強制笑いです。麻痺や小脳症状、病的反射などの症状も病変の広がりに応じてみられます。
このタイプの人のリハビリテーション上の問題点としては以下のようなものがあります。
- 意識が集中できず注意が守れなかったり、持続しない。
- 学習効果がない。
- 失語があって言語指示が入らない。
- 失行があって食器の使い方や食べる順序がわからない。
- 保続のために同じ動作を繰り返す。
- 食べている最中にしゃべりはじめて誤嚥の危険が高まる。
- 食べるための訓練が必要であるという意味がわからない。
ハイハイと返事をしながら指示が入らなかったりするので、高次脳機能を十分チェックして嚥下訓練に臨む必要があります。特殊な形としてビンスワンガー病、多発脳梗塞痴呆などがあります。
2.内包型(大脳基底核病変型、中心型)
内包の小さな病変(両側)で起こることもありますが、普通は両側脳内出血後などのように線条体や視床を含んだ病変で、脳血管性パーキンソン症候群の症状を呈することが多いです。仮面様顔貌、四肢の筋肉の硬直、振戦、前傾・小刻み歩行、無動や寡動などと表現される運動速度の低下などがみられます。嚥下に関しても咀嚼、舌の運動の速度に低下がみられます。このタイプの人は自分のペースでゆっくり食べている間は問題ないのに、周りであと片づけが始まったり、急がせたりすると途端にむせが始まることがあります。
自分のペースで食べているときは一口の量も少なく、一口について何回かゴクンと飲み込む動作をしていますが、急がされると口に含む量が多くなったり、注意が嚥下からそれてしまうために、協調運動が乱れたり、咽頭にまだ食物が残っているのに次々に食べるために、あふれてしまって誤嚥するなどが原因と考えられます。痴呆症状を伴うこともあります。
3.脳幹型
また「めまい」を訴え、それと同時に嘔気、嘔吐を伴って食事どころではないという患者も多くみられます。めまいは脳幹部障害の重要な症状ですが、精神的不安から必要以上にめまいを強く訴える傾向にあります。動くとめまいが増強するために絶対安静を続け、めまいが軽くなっても不安から起き上がることを拒否したり、起き上がることを考えただけでめまいが始まる、などということになりります。眼振が明瞭に認められてめまいが強い時期は安静を保ち、この時期には無理に動かさないで嘔気や嘔吐をなるべく経験させないようにすることが大切です。めまいが治まってきたら、今度は時期を失わずに精神的サポートを行いながら座位訓練、嚥下訓練に入るようにします。眼球運動障害がある場合には複視(ものが二重に見える)が加わってさらに複雑となります。この場合は眼帯をして複視の影響を除くと有効なことがあるようです。
脳幹型の仮性球麻痺では発症初期に球麻痺と同じ状態を呈することがあります。橋や中脳の大きい出血や梗塞の初期に、隣接する延髄の機能が落ちるため、呼吸が停止し、嚥下反射も全く消失して、まさに球麻痺と同じ状態になるのです。急性期を乗り切ると、呼吸とともに嚥下反射も回復してきます。このように当初は球麻痺と思われたものが仮性球麻痺に移行することがあるので注意深い観察が必要です。