認知症 投薬は本人のために
アルツハイマー型認知症の人のための薬として、日本では、アリセプト、メマリーなど4種類が使われています。これらは「抗認知症薬」といわれます。根本的に認知症を治すことはできませんが、記憶力や注意力など認知機能の低下を遅らせる効果があります。
先日、ある家族から、「飲んでも効かない」という相談がありました。施設職員からは、「元気になりすぎて困るのでやめてほしい」とも言われました。一方で、抗認知症薬を飲んだある認知症の人は、「頭の中の霧が晴れたようだ」と話しています。同じ薬でも、効果に対する実感には、随分とずれがあるようです。
こうしたことが起きるのは、抗認知症薬の効果について、「認知症が治る」「認知症の人を静かにさせられる」といった誤解があるためだと思います。
薬の効果は、高血圧の薬なら血圧計で調べられるように、抗認知症薬も効果を測る方法があります。薬を飲んだ人が書かれた言葉を覚えたり、図形を描いたりする神経心理検査という方法です。しかし、心理学の専門知識が必要なため、あまり普及していません。
この検査が普及すれば、抗認知症薬が何に効いているのかへの理解が深まります。それは、「薬は周囲のためではなく本人のためにある」というごく当たり前のことへの理解にもつながります。この考えが広まれば、「認知症の人がどう生きたいのか」を第一に考える社会に近づく気がします。
薬で認知機能の低下を遅らせても、「認知症になっても生きていきたい」と思える社会でなければ意味がありません。「少しでもいい状態でいたい」という当たり前の思いを大事にしたいと思いませんか。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)(終わり)
(2012年3月26日 読売新聞)
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